【No.72】我慢できない ツリフネソウ、キツリフネ、ワタラセツリフネソウ
ツリフネソウ(ツリフネソウ科)
Impatiens textorii
ツリフネソウです。
樹林内の湿った場所や小さな流れのあるところ、ヨシ原の中等、湿った暗い日陰に生えます。花期は9~10月頃です。
名前は「釣舟」という茶道の花器に花の形が似ていることからついたとされます。調べてみると、竹や銅で出来た船の形の花器を、細い鎖や紐で吊り、その中に茶花を活けるもののようです。
写真をよく見ていただくと分かりますが、花の真ん中より少し前寄りの所に花茎がついていて、花を花茎で吊り下げたような恰好になっています。花は3~4cm程と大きく、花時にはよく目立ちます。
属名はインパチェンス。花の形はだいぶ違って見えますが、花屋でよく売っているインパチェンスと同じ仲間になります。あと、昔は学校の花壇なんかによく植えられていた「鳳仙花」も同じインパチェンス属です。
「インパチェンス」とはラテン語で「我慢できない」という意味。熟した果実に軽く手を触れただけで、果皮がパチンと弾けて種を飛ばす様子を表現したものです。昔、鳳仙花の実を触って、種を飛ばして遊んだ記憶がありますが、今は鳳仙花あまりみかけなくなりましたね。
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ツリフネソウには、幾つか近縁種があります。
これはキツリフネ。
キツリフネ(ツリフネソウ科)
Impatiens noli-tangere
花の形はおおむねツリフネソウと一緒ですが、花の色が明るい黄色で、葉の鋸歯(葉の周りのギザギザ)が丸いというのがツリフネソウとの違い。ツリフネソウとははっきりと棲み分けをしていないようで、この2種はよく混生しています。
そして、ごく最近になってツリフネソウとは別種だということが分かり、2005年に新種として発表されたのが、このワタラセツリフネソウ。
ワタラセツリフネソウ(ツリフネソウ科)
Impatiens ohwadae
その名の通り、渡良瀬遊水地で最初に発見されました。ツリフネソウよりもやや明るい環境を好みます。花の形にわずかな違いがあり、花の左右にある「小花弁」と呼ばれる小さな花びらが、ツリフネソウは先が尖り、カイゼルひげのように湾曲しているのですが、ワタラセツリフネソウは先が丸くて少し黒くなっており、湾曲していないのが特徴です。渡良瀬遊水地以外にも生育しますが、渡良瀬遊水地でみられるものは全てワタラセツリフネソウです。
他にも近畿、四国、九州に分布するハガクレツリフネという種があるのですが、残念ながら写真がありません。葉の陰に隠れるように花を咲かせます。
以上、ツリフネソウとその近縁種の話でした。




