【No.7】悪女の深情け オニノヤガラ
私が長年撮り溜めていた野生植物の写真の中から、適当にピックアップして、その種にまつわる思い出などを文章にして、一種ずつ紹介していきます。
蘭鍾馗の、まじめな方のエッセイです。
オニノヤガラ(ラン科) Gastrodia elata Blume var. elata
「悪女の深情けですな。」
以前、某緑地公園で調査をした時、調査項目の中に「菌類」(要はキノコですよ)があって、社内で対応できる者がいなかったため、地元のキノコの先生に調査をお願いしたことがあります。
その先生の調査に同行して、一緒に公園内を歩きながら、いろんな話をしたのですが、その中でオニノヤガラの話になった時に、先生の口から出てきた言葉が、冒頭のこれ。
「悪女」というのは、オニノヤガラの共生菌であるナラタケのこと。
ナラタケは、コナラやブナ、アカマツ、ヒノキ等の切株や朽木等に生えるキノコで、食用になります。で、どこが悪女なのかというと、このキノコ、厄介なことに、枯れた木に生えるだけでなく、生きた木にも寄生し、樹木を枯らしてしまう病原菌でもあるのです。コナラ、ミズナラやサクラ、またリンゴやナシ、モモ等の果樹にもつくことがあり、農業や林業で大きな被害をもたらします。
あと、食用になると書きましたが、生食したり食べ過ぎたりすると中毒を起こすとも言われており、まあ色々と要注意な「悪女」であるわけです。
ところが、この「悪女」が、何故かこのオニノヤガラにはかいがいしく世話をして、必要な栄養を与えて育てます。その結果、茎は40cm~1mほどにもなり、日本の野生ランの中でも最大級の大きさに生長します。これが鬼が放った矢が地面に突き刺さったように見えるというので、「鬼の矢柄」の名がついたとか。
花はこの長い茎の先端に集中して、20~50個ほどの小さな黄褐色の花を咲かせます。
花の形はちょっと面白く、人の足のような形をしています。
ちょうど、泥棒が抜き足さし足で歩く時に、上げた方の足の指を曲げて足首を伸ばしているような・・・そんな感じに見えませんかね?ほら、かかとも指もある。
<オニノヤガラの花>
この花の形から「ヌスビトノアシ」という別名もあります。
このオニノヤガラ、地下にちょっと大きめの根茎というかイモがあるのですが、このイモを乾燥させたものは漢方で「天麻」と呼ばれ、頭痛やめまい、関節の痛み等に効く薬になるんだそうです。あと、茹でて食べるとちょっと甘くておいしいという話も。
私は食べたことありませんけどね。