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あてどない植物記  作者: 蘭鍾馗


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【No.68】秋の七草+1 その6 ススキ

 さて、ススキです。

 秋の七草では、多分一番地味。ワレモコウがいないのでチャンピオン確定です。


ススキ(イネ科)

Miscanthus sinensis

挿絵(By みてみん)


 なにせ風媒花ですからね。花粉が飛ばせればそれでいい。虫に媚を売る必要がないから、きれいな花弁も甘い香りも一切なし。でも、秋らしい風情はちゃんと持っている。そんな花。


 崩壊地や河原なんかの裸地にいち早く侵入して、群落を作ります。いわゆる「先駆植物パイオニアプランツ」でもあります。火山の噴火で出来た火砕流の裸地なんかに、アカマツ等とともに真っ先に入り込むのもこのススキ。


 ◇


 さて、学校の生物の教科書なんかには、「植生遷移しょくせいせんい」の説明として、良くこんなことが書いてあります。


「噴火等で出来た岩だらけの裸地の上に、まず地衣類や苔が入り込み、それが枯れて堆積して有機物がたまります。次にそこに一年草が入り込んで生育し、それが枯れて土になり、そこへ今度は多年草が入り込みます。そして、その次は樹木が生え始め、やがて森林になっていきます。」


 これ、「地衣類や苔が入り込み」までは合ってます。でもその次の「一年草が入り込んで生育し」は実はウソ。噴火や崩壊で出来た土のない裸地に最初に入り込むのは、実はアカマツ等の一部の樹木や、ススキ等の一部の多年草なんです。


 裸地に一年草が入り込んで繁茂することはありますが、実はそれは、山火事や造成等で出来た裸地で、そこにはすでに栄養豊富な「土」があります。一年草は一年で種子を作って枯れ、次の世代を残さないといけませんが、それには栄養のある土が必要。一年草の種子が飛んできて芽を出しても、ある程度栄養のある土がなければ、子孫を残せずに枯れてしまいます。

 その点、樹木や多年草は、何年も耐え忍びながらゆっくり成長し、時間をかけて花を咲かせ、種を散らすことができます。こういう「土壌の全くない裸地」から始まる植生遷移を「一次遷移」と言います。一年草が入り込んで始まるのは、すでに土壌があるところが山火事等で裸地になってスタートする「二次遷移」と呼ばれるもの。「ヤナギラン」の所で書いたような、山火事のあとに一年草のヤナギランが広がるようなのは「二次遷移」になります。これは栄養豊富な土壌がすでにあるから、出来ることなのです。

 

 ◇


 ところで、ススキには草姿や花がよく似た兄弟がいます。その名は「オギ」。


オギ(イネ科)

Miscanthus sacchariflorus

挿絵(By みてみん)


 本当、そっくりですよね。でもよく見ると、花(穂)の色が違う。ススキは黄色っぽい色をしていますが、オギの花は紫がかった色をしている。あと、全体にススキよりもやや大型です。

 実は生え方も違います。ススキは一株ずつ離れて生えていますが、オギは地下茎で増えるので、面的に広がって生える。大きな河川の高水敷なんかに、よく一面に大群生しているのは、オギです。生える環境も、ススキは乾いた草地ですが、オギは湿った河原等。ヨシ原程びちゃびちゃではないけれどもススキ草地程乾燥していない、そんな場所に生えます。

 あと、細かい話ですが、普通の植物の花に相当する「小穂しょうすい」に、ススキは「のぎ」という1cm弱くらいの糸状の突起があるのですが、オギにはこれがない。我々調査屋はこれで区別します。


 このオギの花、広い河原に一面に咲くと、「紫銀色」みたいな色になって、結構見事です。私はこれきれいだと思うんですけどねえ。同意してくれる人はほとんどいませんが。


 ちょっとめんどくさい話もしてしまいましたが、以上、秋の七草の地味王、ススキの話でした。


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