【No.66】秋の七草+1 その4 ハギ
さて、その4は「ハギ」なんですが、今回はひとつはっきりさせたいことが。
秋の七草のハギって、何ハギ?
そう、あれです。
「ハギという名のハギは、ない」んです。
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ヤマハギ(マメ科)
Lespedeza bicolor
まずは、一番分布の広い、この種から。
北海道、本州、四国、九州に自生します。高さは1~3mほどの低木です。
地面から細い幹が何本も株立ち状に出ますが、大抵1年で枯れて、翌年はまた地際から新しい幹が出ます。樹木ですが、まるで宿根草のような育ち方をします。
また、性質は強健で、痩せた土にも耐えるため、道路法面の緑化などに使用されます。
万葉集なんかに出てくるのは、このヤマハギではないかと言われているそうです。なので、秋の七草のハギも、これかも知れません。
とりあえず、秋の七草のハギは、この「ヤマハギ」ってことにしときましょうか。
マルバハギ(マメ科)
Lespedeza cyrtobotrya
で、これはマルバハギ。岩手県沿岸部以南の本州と、四国、九州に分布します。ヤマハギよりやや西寄りに分布します。ヤマハギと似ていますが、一番の違いは花序が短いこと。なので、枝に花が密生しているように見えます。性質が強く瘦せ地に耐えるのはヤマハギと同じ。
ミヤギノハギ(マメ科)
Lespedeza thunbergii
上記2種が野生種であるのに対し、ミヤギノハギは改良された園芸種。江戸時代に、中部地方以北の本州日本海側に分布するケハギから作られたものと言われていますが、現在は野生化したものも多くみられます。一番の特徴は、枝が枝垂れること。庭等に植えると、大変雅な雰囲気になります。
ああ、ケハギの写真がない。
キハギ(マメ科)
Lespedeza buergeri
最後はこれ。キハギ。
キハギは「黄萩」ではなく、「木萩」。他のハギと違って、幹が年を越して生き残ります。なので、樹形も普通の木みたいになります。地味なハギですけど、凛とした雰囲気があって、これはこれでなかなか良いかな。
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マメ科ハギ属の大きな特徴は、その実にあります。
普通、マメ科の果実というと、枝豆やインゲン豆みたいに、細長い莢のなかに多くの種子が入っていて、熟すと莢がはじけて種子を散らします。
ところが、ハギ属は一つの莢のなかに入っている種子はひとつだけ。しかも、莢ははじけません。そのまま莢ごと地面にぽとりと落ちるだけ。
実は彼らは、「時間旅行者」なんです。そう、蓮と同じ。
ハギの仲間は、崩壊地や山火事の跡などに出来る裸地に生えてきます。いわゆる「先駆植物」です。でも、そういう裸地は一時的なもので、地面が安定すると他の植物が入ってきます。先駆植物は後から入ってくる植物との競争に弱いので、種子を作って何処か他の所へ行かなければなりません。
ところが、ハギは他所へ行かない。種子は親株の根元に落ちるだけ。
自分の足元に落ちた種子は、そのまま休眠します。
そして、何十年も経ってから、その場所でまた山火事や山崩れ等が起きると、それが刺激となって種子が発芽すると言われます。山火事等である程度の熱にさらされると発芽するという報告もあります。
そうやって、空間ではなく、時間を旅して次の世代に命を託す。
それで今まで生き残ってこれたんですから、戦略としてはありなのかも知れません。
気の長い話ですが。




