【No.54】本当の青 ツユクサ
ツユクサ(ツユクサ科)
Commelina communis
ツユクサと言えば、夏に咲く青い花の雑草。別に珍しくもない、ありふれた雑草なんですが、この花、ひとつだけすごい所があります。その青い色です。
これより青い花、見た事あるでしょうか?
私は、ありません。
「あてどない植物記」でも、これまで幾つも青い花は登場しています。
これまで登場した中では、
・ハルリンドウ
・ヤマエンゴサク
・ホタルカズラ
・エゾアジサイ
あたりが、青い花と言えるでしょうか。
でも、写真を見ると分かるとおり、どれもわずかに赤みを帯びていたり、花弁の一部が紫色だったりと、いずれも完全な青い花ではありません。あの「ヒマラヤの青いケシ」だって、花弁の一部がわずかに赤みを帯びていることも良くあります。
でも、ツユクサの花は、赤みの混じらない完全な青。
ここまで青い花は、実はなかなかないんです。
◇
ツユクサの花弁を絞って得られる汁は、花と同じ青色。
これも実は珍しいことなんです。
例えば、「青いラン」として有名なヴァンダ・セルレアという花があります。花は赤みがほとんど感じられない水色。でも、この花を絞って出てくる汁は、赤紫。
実はこの花、花弁の表面に円錐形の透明な細胞がびっしり並んでいて、これが光を散乱させることで青く見せているのです。なかなか凝った仕掛けですが、逆に言うと、それくらいしないと青く発色させるのが難しい。
植物で、青系の色を発色させる色素は「アントシアニン(花青素)」と言われるもの。
この色素は、pHで色が変わり、酸性だと赤紫、アルカリ性だと青色になります。
しかし、植物の細胞内は通常弱酸性なので、アントシアニンを植物の体内で青色に発色させるのは非常に困難なのです。
では、ツユクサはどうしているか。
ツユクサの青い色素は「コンメリニン」という名前で、アントシアニンの一種である「マロニルアオバニン」という色素と、フラボノイドの一種である「フラボコンメリン」という2つの色素が、マグネシウムイオンを中心に互い違いに3つずつ並んだ、六角形のような構造をしている……んだそうです。
まあ、分子構造の難しい話は私もわからないので脇に置いといて。大事なポイントは、この色素がpHに左右されず安定した青色に発色する、ということ。この性質のおかげで、ツユクサはこの奇跡のような青い花を咲かせることが出来るわけです。
この色素は、発色は安定していますが、水に大変溶けやすい。なので、染料としては不向きなのですが、この性質を逆に利用して、友禅染の下絵を描くのに使われます。下絵を描いて染めた後、水で洗い流せば下絵はきれいに消える、というわけです。
この友禅染の下絵に使われるのは、ツユクサを改良して作られた「オオボウシバナ」の絞り汁です。花はツユクサそっくりですが、花びらにはフリルがあって、大きさは4~5cmにもなるそうです。私はまだ実物を見た事がありません。なので、写真もないんです。ごめん。
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代わりに、というわけでもないんですが、ツユクサの近縁種「マルバツユクサ」の写真を、最後にご紹介しときましょう。
マルバツユクサ(ツユクサ科)
Commelina benghalensis
ちょっと色が薄く見えますが、これもツユクサと同じく、混じりけのない青い花。
花の大きさはツユクサの半分くらい。葉の縁が波打つのがチャームポイントですかね。
畑の脇でよく見かけます。ツユクサよりも耕地雑草的な性格が強いようです。




