【Intermission】色が変わる花
花の色は移りにけりないたづらに
我が身世にふるながめせしまに
(訳:長雨で桜の花が色あせちゃったねえ。そんなこと言ってボーっとしてる間に私もなんだか随分おばさんになっちゃったけど。)
百人一種の小野小町の歌ですね。
でも、桜の花って色褪せるんだっけ?その前に散るんじゃないの?
実は、桜も散る前に色褪せます。というか変色します。
ただし、花びらじゃなくて花の芯のあたりがですけど。
<花の芯が変色した桜>
上の写真、真ん中あたりに5~6個の花が固まって咲いてますけど、上のほうと下のほうの花は花の芯が黄色っぽいのに対し、真ん中に咲いている花の芯は赤っぽい色になっている。
これ、芯が黄色い方が咲いて間もない新しい花で、芯が赤い花は受粉が済んだ古い花です。
アゲハチョウの仲間などの例外はありますが、一般的に昆虫は赤い色が見えないと言われます。一方、黄色は昆虫が好む色で、自然界では黄色は蜜や花粉などの「食べ物の色」です。
つまり、受粉が済んでしまった古い花は、芯のところを赤くすることで昆虫の目から目立たなくし、まだ受粉していない、芯の黄色い新しい花に昆虫を誘導しようとしていると言われています。
要は、「お客さんもうカンバンだよ。」と。
中には、花びらの色そのものを変えて「閉店」のサインを出すものもいます。
ハコネウツギという低木の花は、咲いたばかりの時は白色ですが、日がたつにつれてだんだん花が赤くなってきます。昆虫は受粉が済んで赤くなった花には目もくれず、新しい白い花を訪れるわけです。
これが、人間の目には、紅白の花が咲いているようで、なんとも賑やかに見えるわけですね。なので、ハコネウツギは庭木として人気があります。
<ハコネウツギの紅白の花>
ところが、このハコネウツギの近縁種で、最初から濃い赤の花を咲かせる種があります。
ヤブウツギです。
<ヤブウツギは赤一色>
開店と同時に即カンバン、ってそんな馬鹿な。
これは、アゲハチョウのような赤い色が見える昆虫が送粉者なのかも知れません。
◇
閉店のサインを、黄色い色で出すやつもいます。
えー、黄色は食べ物のサインじゃなかったの?とか思うんですが、白よりは目立たないということで、花びら全体を黄色く染めて目立たないようにしているようです。いや、もしかしたら昆虫には見えて人間には見えない紫外線で見ると、食べ物のサインの黄色とは別の色に見えるのかも知れませんが。
このやり方の代表的な奴というと、これ。スイカズラです。
<スイカズラの花>
白い花が新しい花、黄色いのが古い花です。
あと、写真ないんですが、クチナシも古い花が黄色くなりますね。
◇
色が変わる花と言えば、アジサイもそう。
最初からピンク色の花が咲いたりする園芸品種なんかは別として、一般にアジサイの花は青紫→赤紫に変化します。青はやはり昆虫が好きな色と言われますから、赤く変色することで、古い花を目立たなくしているんでしょうか?
でも、前にアジサイの回で書いたとおり、野生のガクアジサイやヤマアジサイは、ふつう白っぽい花。この白っぽい花は、花の盛りを過ぎても赤くはなりません。これでは虫は来てしまいますよね。
アジサイ類は、もうちょっと強硬な手段に訴えます。
花が古くなると、まず、花序の周りを囲む装飾花が下を向きます。そして、花びら(この場合は萼片ですが)が緑色になってきます。この状態のものが良くドライフラワーなんかにされますよね。
植物は自分では動けませんから、こうして花の色を変えることで、訪花する昆虫の行動をコントロールしようとするわけですね。
以上、花の色が移ろう理由についてでした。




