【No.5】無駄に美しい? カラマツ
私が長年撮り溜めていた野生植物の写真の中から、適当にピックアップして、その種にまつわる思い出などを文章にして、一種ずつ紹介していきます。
蘭鍾馗の、まじめな方のエッセイです。
カラマツ(マツ科)Larix kaempferi (Lamb.) Carrière
カラマツの雌花です。
日本原産の針葉樹では唯一の落葉樹で、春早く、葉が出るのとほぼ同時に雄花と雌花が咲きます。スギやアカマツと同じ風媒花ですから、花粉を飛ばすのに邪魔になる葉が茂る前に、こうして花を咲かせます。
ちなみに、雄花の方は黄色い小さな房状で下向きに咲き(ああ写真がない)、花粉を閉じ込めている鱗片が開くと、風に乗って花粉が飛ぶしくみになっています。で、飛んできた花粉はこの雌花に届き、ピンク色の鱗片の隙間から入って受粉するのです・・・が。
それはいいんですが。
無駄に美しくないですか?カラマツの雌花。
これ、昆虫が誘引されても不思議じゃないレベルだと思います。
でも、カラマツが虫媒花だ、なんていう記述は、どんな図鑑や文献にもありません。
雌花に色がついている理由ですが、ハイマツの雌花なんかも赤い色をしているので(こんなにヒラヒラではないので美しくはないですが)、紫外線から中の雌蕊や胚珠を守る役目があるのではないかと思われます。虫を誘引するためではないでしょう、多分。
<参考:ハイマツの雌花>
ただ、風媒花に虫が集まることはあります。目当ては花粉。
カナムグラという、荒れ地に広がる棘だらけの蔓草があるのですが、花は風媒花です。このカナムグラの雄花に、小さなハナバチのような虫が沢山訪れて、一生懸命に花粉を集めているのを見たことがあります。でも、雌花は緑色(ちょっと赤い色が乗るくらい)で地味なので、虫は雌花の方には来ていませんでした。
<参考:カナムグラの花>
雄花
雌花
で、話をカラマツに戻しましょう。
カラマツも、雄花に虫が来る可能性は充分あるでしょう。花粉を集めに。
で、その後、帰りがけに雌花を見つけてしまうわけですよ。何だこのピンクのやつは?と。
それで、ついつい雌花に潜り込んでしまえば、雌蕊に花粉がついて受粉成功・・・って本当かよ。
こんなことが実際に起きるかどうかはわかりませんし、「こういうことが起きる」なんて書いてある文献は私が知る限りありません。
でも、虫媒花のはじまりって、案外こんな感じだったのかも知れません。
以上、カラマツの雌花を見ながらの、私の勝手な妄想でした。