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あてどない植物記  作者: 蘭鍾馗


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【No.51】夏服の麗人 ナツツバキ

 関東が梅雨入り。じわじわと蒸し暑くなって来ました。

 ネムノキに続く初夏の花です。うちの近所でも、これが咲き始めました。


ナツツバキ(ツバキ科)

Stewartia pseudocamellia

挿絵(By みてみん)


 ナツツバキです。


 冬に咲くヤブツバキとは対照的な、涼し気な白い大きな花。

 花びらの端には、細かいフリルがついていて、豪華な感じがします。

 落葉樹なので葉も薄手で、葉脈が目立つ葉は軽やかな感じ。夏服に着替えた椿、といった感じでしょうか。


 分布はは宮城県・福島県・新潟県以西の本州、四国、九州。少し標高の高い、低山帯上部の涼しい山に生えます。幹は樹皮が早期に脱落するためつるつるで、その樹皮の落ち具合から、表面に鹿の子模様のような楕円形の模様ができます。姿も花も美しいことから、庭園植栽等に良く用いられます。例えばちょっと小洒落たマンションなんかの玄関先の植え込みに良く使われます。


 白い花はヤブツバキよりも大きく、とても明るく華やかですが、この大きな花はたった一日で終わる「一日花」。散る時はヤブツバキと同じように、花が丸ごとぼとりと落ちます。花時には、ナツツバキの樹下にはこの落ちた白い花が幾つも散らばっていて、これもまた豪華な感じ。夏は送粉者となる昆虫も沢山いるので、一日咲けば十分に受粉の機会がある、ということなのか、夏に咲く花にはこうした「一日花」が多い。ほら、アサガオなんかもそうですよね。少々勿体ない気もしますが。


 ナツツバキの近縁種には、これより花がだいぶ小さい「ヒメシャラ」という木があります。こんな感じ。高い所に咲いているのを下から撮ったので、ちょっと逆光になっていますが。ナツツバキは、釈迦が悟りを開いた「沙羅双樹」に似ているということから「シャラノキ」という別名がありますが、それに似て花が小さいことから「ヒメシャラ」と名付けられたようです。分布は神奈川県箱根以西から和歌山県までの本州太平洋側、四国南部、九州、屋久島。朝鮮半島にも自生するナツツバキと異なり、こちらは日本固有種になります。樹皮はナツツバキのような鹿の子模様になりませんが、やはりつるつる。やや濃いめの茶色い幹が光って美しいので、盆栽に良く使われます。平鉢に寄せ植えにして雑木林を模し、冬枯れの姿を楽しみます。


ヒメシャラ(ツバキ科)

Stewartia monadelpha

挿絵(By みてみん)


 このナツツバキとヒメシャラ、冬に咲くヤブツバキとの一番大きな違いは、実はそのサイズ。


 ヤブツバキが樹高5~10m程の低木であるのに対し、ナツツバキとヒメシャラは、20mを超えることもある高木です。昔、大学の頃に九州山地の演習林で、ブナやミズナラの大木に混じって、一抱えもあるようなナツツバキやヒメシャラが生えている所を見たことがあります。その森は藩政時代に一度伐採されて以降300年以上伐採されていないそうで、とにかく驚くような大径木林でした。ナツツバキとヒメシャラの違いは樹皮でわかるだけ。葉も花もはるか上空にあって判別できません。葉や花の観察は無理。

 一見すると見事な天然の大径木林のようですが、ブナに混じってミズナラ等が多いことから、これが天然林ではなく、過去に一度伐採された樹林であることが分かる、と習った覚えがあります。


 そんなわけで、ここに掲載したナツツバキとヒメシャラの写真は、いずれも植栽されたもの。ナツツバキは飛騨高山の街路樹、ヒメシャラは伊豆天神原の植栽樹です。

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