【No.50】初夏の夢 ネムノキ
ネムノキ(マメ科)
Albizia julibrissin
ネムノキです。
ふわりとした、淡紅色の糸を束ねたような花。
この、いかにも雨に弱そうな花が、何故か梅雨時に咲きます。
葉も細かい複葉になっていて、全体に繊細で柔らかな雰囲気があります。
大変美しい木ですが、割とありふれた種で、人里近くの山や、川岸などに良く生えています。
樹形は、枝が横に広がる傘のような形。柔らかい木陰が出来ます。
<ネムノキの樹形>
いかにも街路樹なんかに良さそうなんですが、移植や剪定を嫌うことと、横に広がる枝が建物や道路にかかりやすいことから、街路樹としては使いにくい樹種です。でも事例が皆無なわけではなくて、東北の方で街路樹に植えられているのを見たことがあります。関東では見かけないような大木になっていました。
ちなみに、上の写真は千葉県の川村記念美術館の庭園に植栽されていたものです。
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ところで、マメ科の花というと、普通はこんな感じ。「旗弁」という大きな1枚の花弁が背後にあって、その前に雄蕊と雌蕊を覆い隠すように、残り4枚の花弁が突き出ています(うち2枚は「竜骨弁」と呼ばれ、合着して雄蕊と雌蕊をくるんでいます。外からは見えません)。
<マメ科の花の形>
ところが、ネムノキの花は、「旗弁」どころか、そもそも花弁が見当たらない。
よく見ると、花の付け根に萼片みたいな小さな緑色の裂片があって、これが花弁。昆虫をおびき寄せる看板の役割は、完全に雄蕊と雌蕊に移譲してしまっています。マメ科の中でこういう花を咲かせるグループは「ネムノキ亜科」と呼ばれ、ミモザなんかがこのグループに属します。
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ネムノキの花はこんな。
つぼみも写っているので、あのふわっとしたピンクの花は、20~30個くらいの花の集合体(花序)であることがわかります。で、実はこの花の集合体(花序)の中で、ひとつだけ違う形をした花があって、他の花より花筒が長く、蜜を溜める役割を持っています。雄蕊も他の花のように上に伸びるのではなく、水平に広がります。これを「頂生花」と言います。「頂生花」以外の花は「側生花」と呼ばれます。
<ネムノキの花>
この「頂生花」、以前はこれだけが結実する雌花で、残りは雄花だと言われていましたが、どうもそうではないらしく、結実するのはむしろ「側生花」のほう(ちゃんと調べた人がいるんです)。しかし、ひとつの花序で結実するのは通常1個なので、このひとつだけ形の違う「頂生花」が雌花だと思われたのでしょう。
それにしても、こんな繊細なつくりの花が、何故梅雨時を選んで咲くんでしょう。調べてみたんですが、答えは出てきませんでした。
ただ、この花の色、曇り空の下で一際映える色であることは確かです。
花言葉は「歓喜」、「胸のときめき」、「夢想」などだそうです。
初夏の一時期にだけ現れる、本当に夢のような花です。




