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【No.43】藤本の2つの戦略 フジ、テイカカズラ

 藤本って誰?


 いやそうじゃなくて。

 これは「とうほん」と呼んでください。樹木になるつる植物のことです。


 樹木のことを「木本植物もくほんしょくぶつ」、草のことを「草本植物そうほんしょくぶつ」というように、つる植物の中で、生長するにつれて茎が木質化し、太い幹になるものを「藤本植物とうほんしょくぶつ」と呼びます。

 これ、わりと古い呼び方で、今はあまり使われませんが。


 代表格はこれ。その名の元になった、フジ。


フジ(マメ科) Wisteria floribunda

挿絵(By みてみん)


 こうして他の樹木に巻き付いて登り、明るい木のてっぺんまで届いたら、葉を茂らせて思う存分花を咲かせます。

 花はこんな。きれいですよね、フジ。いい香りもします。


<フジの花>

挿絵(By みてみん)


 フジは、芽生えてからしばらくは、普通のつる草のような姿で林床を這っています。そのうち、樹林内の木が倒れたりして樹林に小さな明るい隙間ができると、フジは生長に勢いがついて、近くの木に巻き付いて登り始めます。そうして、樹林の一番上(林冠りんかんといいます)までたどり着いたら、葉を茂らせて、幹が木質化して太くなります。

 そうなると、巻き付かれた木はたまったもんじゃない。フジの幹が太くなるにつれてだんだんと締め付けられてゆき、ついには折れてしまいます。


 じゃあ、巻き付いていたフジも道連れじゃん?とか思うかも知れませんが、それくらい生長した頃には、林冠の他の木の枝に被さるようにつるを広げているので、登った木が折れてもフジは落ちてこない。

 山に入ると、時々こんなものを見ますけど、これが大きくなったフジのつる、というか幹ですね。

 ここまで大きくなっても、この幹で自立しているわけではないので、林内でぶらぶらと揺れています。


<フジの幹>

挿絵(By みてみん)


 でも、これは自分が登った木をまるまる一本犠牲にする戦略。いくら周辺の木につるでしがみついているとは言え、生長して大きくなった幹もぶら下がっていますから、おそらく、いつかは落ちる運命。

 

 ま、それまでに種子を散布して、またどこかの樹林にたどり着けばいいだけですが。


 ◇


 これに対して、自分が登った木を犠牲にせず、共存する戦略の持ち主もいます。

 その一例がこれ、テイカカズラ。


テイカカズラ(キョウチクトウ科) Trachelospermum asiaticum

挿絵(By みてみん)


 白い香りの良い花を咲かせます。花びらはプロペラみたいな面白い形をしています。

挿絵(By みてみん)


 このテイカカズラという名前、歌人の藤原定家から来ています。式子内親王 を愛した定家が、彼女の死後も忘れられず、蔓草に身を変えてその墓にからみついた、という言い伝えから来ています。

 墓石にからみつくのは、フジには出来ない芸当。テイカカズラは、相手に巻き付くのではなく、つるから気根と呼ばれる付着のための根を出して、それで木の幹等に張り付いて登ってゆきます。

 こんな感じ。テイカカズラの写真がなく、これ実はキヅタの写真なんですが、まあほぼ同じような感じです。蔓から沢山出ている細いものが気根。


<気根で張り付いて木に登る様子>

挿絵(By みてみん)


 巻き付く必要がないので、木の幹をまっすぐ直登できる。それに巻き付かないから、自分が登った木を犠牲にすることはなく、ある程度共存できる。その代わり、フジほど大きくなれませんけどね。

 ただ、林冠で枝葉を広げれば、登った樹木の光合成を邪魔することになりますから、いずれにせよあまり長くは生きられないかも知れません。


 ところで、張り付き型の藤本植物には、一つ問題があります。


 木の幹に張り付いて登っているうちはいいのですが、上の方の林冠までたどり着くと、幹はなくなり、細い枝に張り付くことになります。そして、或る時点でそれはもう無理になるので、テイカカズラは、周囲が明るくなると、気根を出すのをやめて、普通のつる植物のように、枝にからみながら成長するようになります。そして花を咲かせます。


 この変化はどうやら不可逆的なものであるらしく、この花の咲くようになった枝を挿し木して増やしても、気根は出てきません。テイカカズラは花が美しいのでよく緑化などにも使われますが、そういう所に植えられているものは、花が咲く枝の挿し木苗。なので、気根は出てきません。


 まあ、植栽に使うには、その方が扱いやすくていいですけどね。壁なんかに張り付いて登られては管理が大変です。


 ◇


 フジもテイカカズラも、どちらも美しく香りの良い花を沢山咲かせる。

 それは、この生活がそんなに長くは続けられないことを知っているから、派手な花で昆虫を呼んで、急いで種子をつくり、またどこかへ行こうとしているのかも知れません。

 

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