【No.40】春の終わりの野生蘭 シラン、エビネ、サイハイラン、セッコク
記念すべき?40話目はちょっと豪華にいきましょう。
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キンランとギンランの話で、「春の後半戦のトップバッター」なんて書いたように、シュンラン等のごく一部の種を除くと、ランの開花期は遅め。メインの開花期はだいたい6~7月くらい。なので、本稿で紹介するシラン、エビネ、サイハイラン、セッコクは、ランとしては早咲きの部類になります。
そして、この時期に咲く野生蘭は、花の美しいものが多い。
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まずはこれ、シラン。
フクジュソウとセツブンソウの回でちらっと出て来た、他種との競争に弱いために、過酷な環境に逃げ込んで育っている、というやつ。
シラン(ラン科) Bletilla striata
これは山口県の錦川の渓流の岩の上に生えていたもの。栽培品の逸出の可能性もありますが、生育環境から私は自生株の可能性が高いと考えました。栄養が乏しいためか栽培品より少し背が低く、その分凛とした雰囲気があります。
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一方、この時期山の中に咲く野生蘭といえば、これ。
シランと並んで、これも良く栽培されます。
エビネ(ラン科) Calanthe discolor
学名のdiscolorは「2色の」という意味。緑褐色~紫褐色の花被片と、白~淡紅紫の唇弁の2色の色を持つことから来ています。花色の変異が大きく、また近縁種で黄色い花を咲かせる「キエビネ」と簡単に交雑するため、色とりどりの雑種(「タカネ」と呼びます)が出来ます。
ちなみにキエビネ、こんなやつです。撮影前日の雨でちょっと泥がついてますけど。
<キエビネ>
昔、私の田舎の家の近くの山の中腹に、戦時中に高射砲を据えた斜面がありました。一度伐採されたせいで、常緑樹林の中でそこだけ落葉樹林になっていて林床が明るい。そのため、エビネとキエビネ、それと雑種のタカネが林床一面に群生していて、季節になると色とりどりに咲いて、それは見事なものでした。残念なことに当時の写真はないんです。
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このエビネにちょっと似ていて、細長いくすんだピンクの花を咲かせる蘭があります。武将が振る「采配」に似ているというので「サイハイラン」という名がついています。
サイハイラン(ラン科) Cremastra appendiculata var. variabilis
一見すると地味なんですが、アップにするとそうでもない。
<サイハイランのアップ>
このサイハイラン、5月に開花した後すぐに葉が枯れて休眠します。そして9月頃にまた新しい葉がでて、冬の間緑の葉をつけます。ヒガンバナ等と同じように、冬に葉を出して光合成をする「冬緑性」のランです。
そして、冬緑性なのに、なぜか雪国で良くみかける不思議な植物でもあります。
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最後は着生蘭。セッコクです。大きな木や岩の上などに、太い根で張り付いて生育します。
セッコク(ラン科) Dendrobium moniliforme
この姿、どこかで見たことがあるような気がしている方、いるかも知れません。実は園芸店で良く売られているデンドロビウムの仲間。「首飾りのような」という意味の学名を持ちます。ミニサイズのデンドロビウムの園芸種の多くには、このセッコクが交配されています。
花はこんな感じ。
<セッコクの花>
4~5cmくらいの白~淡紅色の花が咲きます。園芸店のミニデンドロビウムによく似てるでしょ?この個体では薄いですが、普通唇弁の根元には黄緑色~淡紅紫色の輪の様な斑紋があります。
自生地としては高尾山なんかが有名。あと、伊勢神宮のとある建物の屋根に沢山咲くのですが、残念ながらそこは撮影禁止なんです。また、宮城県の松島にあるセッコクの自生地は、デンドロビウム属の世界的な北限とされています。私はまだ松島の自生地は見たことないんですが。
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以上、春の終わりの野生蘭の話でした。




