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あてどない植物記  作者: 蘭鍾馗


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【No.40】春の終わりの野生蘭 シラン、エビネ、サイハイラン、セッコク

 記念すべき?40話目はちょっと豪華にいきましょう。


 ◇


 キンランとギンランの話で、「春の後半戦のトップバッター」なんて書いたように、シュンラン等のごく一部の種を除くと、ランの開花期は遅め。メインの開花期はだいたい6~7月くらい。なので、本稿で紹介するシラン、エビネ、サイハイラン、セッコクは、ランとしては早咲きの部類になります。


 そして、この時期に咲く野生蘭は、花の美しいものが多い。


 ◇


 まずはこれ、シラン。


 フクジュソウとセツブンソウの回でちらっと出て来た、他種との競争に弱いために、過酷な環境に逃げ込んで育っている、というやつ。


シラン(ラン科) Bletilla striata

挿絵(By みてみん)


 これは山口県の錦川の渓流の岩の上に生えていたもの。栽培品の逸出の可能性もありますが、生育環境から私は自生株の可能性が高いと考えました。栄養が乏しいためか栽培品より少し背が低く、その分凛とした雰囲気があります。


 ◇


 一方、この時期山の中に咲く野生蘭といえば、これ。

 シランと並んで、これも良く栽培されます。


エビネ(ラン科) Calanthe discolor

挿絵(By みてみん)


 学名のdiscolorは「2色の」という意味。緑褐色~紫褐色の花被片と、白~淡紅紫の唇弁の2色の色を持つことから来ています。花色の変異が大きく、また近縁種で黄色い花を咲かせる「キエビネ」と簡単に交雑するため、色とりどりの雑種(「タカネ」と呼びます)が出来ます。

 ちなみにキエビネ、こんなやつです。撮影前日の雨でちょっと泥がついてますけど。


<キエビネ>

挿絵(By みてみん)


 昔、私の田舎の家の近くの山の中腹に、戦時中に高射砲を据えた斜面がありました。一度伐採されたせいで、常緑樹林の中でそこだけ落葉樹林になっていて林床が明るい。そのため、エビネとキエビネ、それと雑種のタカネが林床一面に群生していて、季節になると色とりどりに咲いて、それは見事なものでした。残念なことに当時の写真はないんです。


 ◇


 このエビネにちょっと似ていて、細長いくすんだピンクの花を咲かせる蘭があります。武将が振る「采配」に似ているというので「サイハイラン」という名がついています。


サイハイラン(ラン科) Cremastra appendiculata var. variabilis

挿絵(By みてみん)


 一見すると地味なんですが、アップにするとそうでもない。


<サイハイランのアップ>

挿絵(By みてみん)


 このサイハイラン、5月に開花した後すぐに葉が枯れて休眠します。そして9月頃にまた新しい葉がでて、冬の間緑の葉をつけます。ヒガンバナ等と同じように、冬に葉を出して光合成をする「冬緑性とうりょくせい」のランです。

 そして、冬緑性なのに、なぜか雪国で良くみかける不思議な植物でもあります。


 ◇


 最後は着生蘭。セッコクです。大きな木や岩の上などに、太い根で張り付いて生育します。

 

セッコク(ラン科) Dendrobium moniliforme

挿絵(By みてみん)


 この姿、どこかで見たことがあるような気がしている方、いるかも知れません。実は園芸店で良く売られているデンドロビウムの仲間。「首飾りのような」という意味の学名を持ちます。ミニサイズのデンドロビウムの園芸種の多くには、このセッコクが交配されています。

 花はこんな感じ。


<セッコクの花>

挿絵(By みてみん)


 4~5cmくらいの白~淡紅色の花が咲きます。園芸店のミニデンドロビウムによく似てるでしょ?この個体では薄いですが、普通唇弁の根元には黄緑色~淡紅紫色の輪の様な斑紋があります。



 自生地としては高尾山なんかが有名。あと、伊勢神宮のとある建物の屋根に沢山咲くのですが、残念ながらそこは撮影禁止なんです。また、宮城県の松島にあるセッコクの自生地は、デンドロビウム属の世界的な北限とされています。私はまだ松島の自生地は見たことないんですが。


 ◇


 以上、春の終わりの野生蘭の話でした。









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