【No.39】春の後半戦 キンランとギンラン
都内ではソメイヨシノがもう終わり。
この仕事をしていると、3月は年度末で忙しいので、桜は見逃すことが多い。なんだかんだやっているうちに、気が付くと春はもう半分終わりです。
私の感覚としては、カタクリやシュンラン等の早春の花が咲いてから、桜までがとりあえず里山の春の前半戦。そして、GWの前あたりから、後半戦が始まる。なんとなくそんな気がします。
で、里山の春の後半戦はというと、トップバッターはこのへんかと。
キンラン(ラン科) Cephalanthera falcata
キンランです。
鮮やかな黄色の花を茎の頂部に幾つも咲かせる、里山を象徴する野生蘭。ひとつずつの花は1~2.5cm程と小さいのですが、固まって咲くので結構目立ちます。花が咲くのは丁度GWの頃。
この仲間(ケファランテラ属)は、「頭のような花」という属名のとおり、花が半開きまでしか開かないものがほとんどですが、その中ではキンランは花が大きく開くほう。花が開くと、中に赤い筋が入った「唇弁」が見えて、なかなか豪華な感じになります。
<キンランの花>
生育場所は、コナラ等の落葉広葉樹林の林縁~明るい林床。昔は決して珍しい花ではありませんでしたが、里山の管理放棄等で雑木林が減ってしまい、気が付くとキンランもなかなか見かけない花になってしまいました。
現在、環境省のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類(VU)、前々回出て来たタチスミレと同じランクの貴重種となっています。「絶滅の危険が増大しており、今後100年間で絶滅する確率10%」というやつです。
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キンランは、コナラ等と共生するベニタケ科やイボタケ科のキノコから、必要な栄養の一部をもらって育つ「部分的菌従属栄養植物」です。要はコナラ、キノコ、キンランの3種で共生しているのです。
キンラン自身も緑の葉を持ちますから、ある程度は自分で栄養を作るのですが、色々な研究によると、どうも必要な栄養の半分程度をコナラの共生菌から得ているようです。なので、キンラン単独で育つことはできず、必ず近くにコナラやクヌギ等のブナ科の樹木、いわゆる「どんぐり」をつける木が生えている必要があります。
キンラン、大変目立つ黄色い花と美しい姿のため、よく盗掘の憂き目に遭います。
でも、上記のように「部分的菌従属栄養植物」であるため、山から掘って来て庭に植えても、育つことはまずありません。運が良ければ2~3年程度芽が出ることがありますが、やがて消えてしまいます。鉢植えなんか無理無理。
ちなみに、近縁種で白い花の咲く「ギンラン」という種があります。こちらは背丈がキンランの半分ほどと小さく、目立たないためにキンランほど盗掘されることはないようですが、掘ってきて庭に植えても育たないのはキンランと同じ。こちらはキンランと違って、花がほとんど開きません。なので地味。開花期はキンランより少し遅め。
ギンラン(ラン科)
これも、昔は珍しい花じゃなかったんですけどね。
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キンランの群生地、知られている所は幾つかありますが、関東だと千葉県の「房総のむら」という所が見事です。ここは昔ながらの里山管理をしているので、驚くほどの数のキンランが咲きます。
中には古い武家屋敷や博物館、売店やレストランもあったりして、なかなか楽しめますよ。家族連れでのお出かけにお勧めです。