【No.37】スミレの話⑥ 湿地の白いスミレ タチスミレとツボスミレ
タチスミレとツボスミレ。
二つ合わせたらタチツボスミレじゃん。
って、誰かが言いそうですけど、今回のテーマはダジャレじゃなくて。
「湿地の白いスミレ」です。
今回は地味ですよ。
では、ツボスミレから行きます。
ツボスミレ(スミレ科) Viola violacea
ツボスミレです。
漢字で書くと「坪菫」。坪庭みたいなところに生える、くらいの意味なんでしょうか。
ジュクジュクではないけれども結構湿った感じ、そんな所に大きな群落を作って生えます。
葉はタチツボスミレより大きい。生育環境にもよりますが3cmくらいになる。5~6月頃に白に紫の筋が入る小さな花を咲かせます。花の大きさは1cmちょっとくらい。ヒメスミレといい勝負です。花はちょっと縦にひしゃげた感じ。ヒメスミレを白くしてうっかり踏んづけてしまったみたいな。
低地のスミレ類の中では最も開花の遅い種。これが咲いたら人里近くのスミレは終了。
茎が長く伸びて地面を這います。この「茎が長く伸びる」という特徴から、孫悟空の如意棒に例えて「ニョイスミレ」とも呼ばれます。ただ、滑舌悪いと「ニオイスミレ」に聞こえてしまうので、私は「ツボスミレ」と呼ぶことが多いですね。滑舌自信ありませんので。
花は小さいんですが、大きめの群落を作ることが多いので、それなりに存在感があります。
ちなみに、「スミレは7割これ」のタチツボスミレも茎が伸びますが、タチツボスミレの方がやや上に立ち上がる傾向があるので「立ち坪菫」というわけですね。
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で、もう一つがこれ。タチスミレ。
タチスミレ(スミレ科) Viola raddeana
白い花はツボスミレよりやや大きめで、整った形をしています。
茎は地際を這うのではなく、まっすぐに立ち上がります。端正な雰囲気のスミレです。
これもツボスミレと同じく湿地に生えますが、生える場所がちょっと違って、ヨシ原の中。
それも、どこのヨシ原でも見られる訳ではない。関東の利根川水系の一部、それから九州の九重あたりと、離れたところに、少数の生育地が点在するだけです。環境省のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類(VU)として記載されています。
ちなみに「絶滅危惧Ⅱ類」の定義は以下のとおり。
「絶滅の危険が増大している種で、今後100年間で絶滅する確率が10%」
このタチスミレも茎が伸びますが、ツボスミレと違ってこっちは縦に伸びる。花は5~6月頃で、花時は20~30cmくらいと小さいのですが、花が終わると、周囲のヨシと競うように茎が伸びて、1mを超える高さになります。私が見た個体は、秋に150cmくらいになっていました。
こんな感じですよ。
<秋のタチスミレ>
まだ青い実がついていますが、これは夏以降に出る「閉鎖花」が結実したもの。スミレ類はこの自家受粉する「閉鎖花」で夏以降もどんどん増えます。
でも、このタチスミレは、ヨシ原の中に種子が落ちても、ある条件を満たした場所でないと芽が出ない。 ある条件とは、明るいこと。でもヨシ原の中はヨシの陰になって暗いはず。ではどうやって種子は芽生えるのか。
実は、このタチスミレの写真を撮った場所は、早春にヨシ焼きをするんです。なので、ヨシ焼きをした後には明るい地面が現れる。タチスミレはそこで発芽して生長するわけです。
でも、6月にもなれば、ヨシ焼きした場所も新しいヨシが芽吹いて伸びてくる。なのでタチスミレも背を伸ばします。でも茎が細いので、自立するのはちょっと無理。そこで、周りのヨシによりかかるようにして伸びます。人の背丈ほどにもなるスミレはこのタチスミレくらいでしょう。
本来の生育環境は、河川の氾濫原だったと考えられます。ところがこうした環境はほとんど残っていないので、タチスミレは「毎年ヨシ焼きをされるヨシ原」に新たな生育環境を見出して生育していたと考えられます。
ヨシ焼きは、もともとヨシを刈って葭簀を作るために、ヨシの生長を促して病気などを防ぐ目的で行われるもの。でも、今は葭簀なんて大して売れないので、葭簀を作るためにヨシ焼きをする所はほとんど残っていません。なので、現在の自生地は大変限られた場所にしかないのです。
ヨシ原の中に咲くので、見つけるのは困難ですが、意外と道のすぐ近くに生えていることもあります。
まあ、見つけたらラッキー、というくらいに考えて、ヨシ原に立ち入って無理に探したりするのはやめときましょう。貴重種保護、という意味はもちろんなのですが、足元泥ですからね。長靴抜けなくなったりしますよ。あと、自生地のヨシ原はとても広くて、ヨシも人の背丈を超えます。一度入ってしまうと、一寸先は緑です。なので、迷子になって帰ってこれない可能性は十分にあります。
そんな感じですから、できれば、そっとしておいてほしいスミレです。
見たいという方は、知っている人に案内してもらうのがいいでしょう。




