【No.36】スミレの話⑤ その名はスミレ スミレと草地性の近縁種達
まあこれ、よく言われる話なんですが。
・サクラという名の桜はない。
・ランという名の蘭はない。
・ユリという名の百合もない。
・でも、スミレという名の菫はあるんだよ。
って。
今回はその「スミレ」と、スミレと近縁な草地性の種について。
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スミレ(スミレ科) Viola mandshurica
スミレです。
河川の堤防や道路脇など、日当たりが良く、草刈等がされている背の低い草地などに生えます。
分布は沖縄~北海道、中国、ウスリー、と広い範囲に及びます。
タチツボスミレよりは、若干肥えた土を好みます。だから田畑の畔なんかでよく見ますね。でも、タチツボスミレのように大きな群落を作ることはないようです。
都会の真ん中でも時々見かけます。何故か道路の側溝の中に沢山咲いているのを見たことがあります。写真撮ろうかと思ったんですが、ちょっと物理的に無理でした。
特徴はまず、この花の色。濃い紫です。「古代紫」とでも言うんでしょうか。
前々回出て来たヒメスミレと同じ感じの色ですが、花が大きい分印象的です。
ここまで濃い紫の花を咲かせるスミレは実は少なく、スミレとヒメスミレくらい。残念ながら香りはありません。
花色には若干の変異がみられます。これは青味の強い花を咲かせる個体。
<青紫色の花を咲かせるスミレ>
葉は細長い鉾型で、多くのスミレのように付け根がハート形にへこみません。また、葉柄に「翼」と呼ばれる葉の延長みたいな「ひれ」があるのも特徴。
昔は、河川の氾濫原(洪水のたびに水につかるような土地です)なんかが生育環境だったと考えられますが、河川の氾濫原のような環境は、人が堤防を整備したり、開墾して田畑を作ったりしたため減ってしまいました。
そこでスミレ達が目をつけたのが、人が草刈りをして維持する半自然の草地。田畑の畔とか、河川の堤防草地とか。今現在、スミレを始めとする草地性の種が多くみられるのは、こんな環境です。
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で、河川の堤防というと、実はスミレよりも良く見かけるのが、以下の2種。
ノジスミレ(スミレ科) Viola yedoensis
ノジスミレは、スミレよりやや明るい紫の花をつけます。特徴は葉が矢尻型であることと、葉や茎に毛が多いこと。美しいスミレですが、スミレのようなキリっとした感じには少し欠けます。「スミレと比べだらしない感じ」なんて書いてある本もあるくらいで(ちょっと言い過ぎでは?)。
でも、花には香りがあります。河川の堤防ではスミレよりも多くみかけます。
あと、河川の堤防と言えば、一番良く見かけるのはこれかも知れません。アリアケスミレ。
アリアケスミレ(スミレ科) Viola betonicifolia var. albescens
花色は白~淡紫色。普通花弁に紫色の細い筋が入ります。花色の変異が多く、上2枚の花弁が淡紫色になるものもあります。
このアリアケスミレ、雑種起源だと言われています。
スミレまはたヒメスミレと、シロスミレまはたノジスミレが交雑したもの、という説があります。でも、シロスミレは割と標高の高い所に生えるスミレなので(スミレの白花品ではなく別種です)、低地で普通に見るアリアケスミレの片親とは考えにくい気がします。花が白いのは、シロスミレが親だからではなく交雑の過程で白色になったのでは?と私は思うのですが、まあ何か根拠があって言ってる訳ではありません。個人の感想です。
葉はスミレと良く似た鉾型ですが、スミレのような「翼」はないことが多いようです。
葉や茎には普通毛がありません。
スミレ類には時々自然交雑による雑種が出来ますが、多くの場合は不稔(種子ができない)になるため、次の世代は出来ません。
これはスミレ以外でもそうで、ラン科のエビネ等のように種間雑種がどんどん出来てしまうようなケースはごく稀です。ほんとに例外。そのエビネでさえ「雑種」は多く存在しますが、「雑種起源の種」はありません。「種」と言うからには、その種同士で交配した種子から生えた個体は、親と同じ形質を持っていなければいけません。ただの雑種だと、同じ雑種同士で交配しても、形質が分離して同じものになりません。例えばスーパーで買ったリンゴやブドウの種をとって蒔いても、同じようなおいしい実が成らないのと同じです。
それが雑種起源でアリアケスミレのような種が成立してしまう、ということは、ちょっと驚くべきことだと思います。
調べていくと、「スミレ」すら雑種起源ではないか?という話まで出て来たりして、こうなるともう私の手には負えないのでこの話はここまで。
閑話休題。
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この「堤防のスミレ」達、ある意味最もスミレらしい姿をしたスミレです。草地性ということもあり、その姿には、何となく大陸的な雰囲気を感じたりもします。
現在の生育環境から考えると、もともとは大陸の木の生えない乾いた草原に生えていたものが、海退期に対馬あたりを辿って日本に入り、そこから分化していったのではないか、と想像してみたり(いや、私の勝手な想像ですよ?)。
仮に、こうした草地に生えるものが日本のスミレ類の起源であれば、スミレやノジスミレ等は、この祖先のスミレに最も近い姿をした種なのかも知れません。
大陸の乾いた広い草原の中に、これらのスミレが咲いているところを、ちょっと想像してしまいます。




