【No.35】スミレの話④ 森林性スミレ エイザンスミレ、スミレサイシン、ナガバノスミレサイシン
「森林性スミレ」というものがあります。
その名の通り、森林に生育するスミレの一群を指す言葉。
私は、このグループがスミレの中で一番面白いのではないかと思っています。
森林性スミレは、落葉広葉樹林の林床に生育し、春、林床で花を咲かせます。
スプリングエフェメラルとその辺は似ていますが、違うのは夏以降も葉をつけて光合成をすること。
ただし、葉が「夏葉」と呼ばれる大型のものに替わります。これは夏以降の日陰になった落葉広葉樹林の林床に適応するためで、日陰でも効率よく光合成ができる専用の葉を出すのです。
スミレの場合、花が終わった初夏以降も、「閉鎖花」という、自家受粉で種子をつくる、花びらの無い花をつけるので、カタクリのように葉を枯らして休眠するわけにいかないのです。
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関東で森林性スミレが多くみられるのは、奥多摩とか高尾山など。どちらかというと、足元が崩れやすいガラガラの山に多い。スミレは長い地下茎を持つため、こういう崩れやすい山でもしっかり足場を固めて生育できるのです。奥多摩では普通に十数種のスミレが見られますが、その多くが森林性のスミレです。
最もよく見る種はこれ、エイザンスミレ。
エイザンスミレ(スミレ科) Viola eizanensis
見ての通り、葉がフギレになっています。細かい切れ込みがあって、この葉だけ見るとスミレとは思えません。花は白~淡紅紫色。色の変化は多いほうですが、変化してもまあピンクの範疇かな。
咲き始めのころは、葉はとても小さくてこんな感じ。
<咲き始めのころのエイザンスミレ>
ところが、花が終わり夏になると、「夏葉」と呼ばれる大きな葉が出てきます。
<エイザンスミレの夏葉>
左下の方にある小さめの葉が花と一緒に出てくる春の葉。真ん中あたりの切れ込みが浅くて大きな葉が夏葉です。知らないと同じ種だとは思えません。
エイザンスミレの「エイザン」は「叡山」。比叡山のことです。何の関係があるのか私はよく知りませんが。調べてみても、特に関係あるという話は出てこない。何だよそれ。
でも、大変品の良い美しいスミレです。花には香りがあります。
そして、森林性スミレの代表格ともいえるのがこれ。スミレサイシン。これは花色が特に濃い個体。新潟の関川で撮影したものです。
スミレサイシン(スミレ科) Viola vaginata
葉は花よりもやや遅れて出る感じで、花時にはまだ葉が巻いた状態です。
で、この葉がハート形で大きく、まるで「細辛」のようだというのでこの名があります。「細辛」とはカンアオイの仲間のこと。こんなやつ。徳川の紋所のモデルとも言われます。
<ウスバサイシン>
スミレサイシンの夏葉です。確かに「細辛」に似ているかも。
ちなみにスミレサイシンの分布は日本海側。太平洋側には近縁種の「ナガバノスミレサイシン」が分布します。奥多摩で見られるのはこっちの方。
ナガバノスミレサイシン(スミレ科) Viola bissetii
スミレサイシンと同じく、花色は変異が多い。
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ああ、今回は写真一杯貼っちゃいました。
スミレサイシンは、根が食べられることでも有名。すりおろしてトロロにして食べるんだそうです。それで「トロロスミレ」という別名もあるとか。
私は食べたことありません。おいしいのかな。
スミレサイシンの仲間は、他にも葉にビロードのような光沢がある「シコクスミレ」とか、いろんな種があります。以前私が育てて花を咲かせられなかった「アケボノスミレ」もこの仲間。
春、高尾山や奥多摩に行ったら、ぜひ足元にもご注目を。いろんな森林性のスミレが見られますよ。




