【No.3】スズメバチの最期のおやつ サザンカ
私が長年撮り溜めていた野生植物の写真の中から、適当にピックアップして、その種にまつわる思い出などを文章にして、一種ずつ紹介していきます。
蘭鍾馗の、まじめな方のエッセイです。
サザンカ(ツバキ科)Camellia sasanqua
野生のサザンカをご覧になった事がありますか?
野生のサザンカは、白い花です。
以前、九州の某ダムで調査の仕事をしていた時、採水のため船で湖上に出ると、ダム湖を囲む山の斜面に沢山の野生のサザンカが咲き、山が白く染まるようだったのを覚えています。
公園なんかに良く植えてある真っ赤なサザンカは、実は「カンツバキ」と呼ばれるもので、サザンカとヤブツバキの交配種だと言われていますが、諸説あって起源がはっきりしていません。
サザンカの自然分布は四国南西部~九州と、意外に狭い範囲に限られています。一方、同じく冬に咲くヤブツバキ(ツバキの原種)は、沖縄~北海道南西部までと、ほぼ日本全国に自生します。どちらも「冬の花」というイメージなのですが、実は開花期が異なります。サザンカは晩秋の10~11月、一方ヤブツバキは早春の2~4月。つまり、年内に咲くのがサザンカで、年が明けてから咲くのがヤブツバキです。
この開花期の違いは、送粉者(花粉を運ぶ動物)の違いによるものと考えられています。
サザンカの花粉を運ぶのは主に昆虫。それに対して、ヤブツバキはメジロ等の鳥。この違いは花のつくりにも表れていて、サザンカの花弁は大きく開き、雄蕊も短めで束にならず開いており、昆虫が訪花した時に体に付きやすいようになっています。
一方のヤブツバキの花は、花弁が厚く、漏斗状にくっついていて、雄蕊も長く束になってまとまっています。これは、メジロ等の鳥類が止まっても大丈夫なように花が頑丈にできており、また花に頭を突っ込んだ時に花粉が付きやすいように、雄蕊も束になっているのです。
サザンカの咲く晩秋は昆虫類の少ない時期ではありますが、それでもミツバチやハナアブ、蛾の仲間などが訪花するようです。
以前、サザンカの花にオオスズメバチが二匹、止まったまま死んでいるのを見たことがあります。
スズメバチの仲間は、11月の初め頃に巣の大きさが最大になりますが、それを過ぎると女王が働きバチを産まなくなり、急速に衰退していきます。スズメバチは青虫等を狩り、肉団子にして幼虫に与え、幼虫は肉団子を食べて、代わりに甘い蜜を出して成虫に与えるという「栄養交換」という方法で生きていくのですが、女王が働きバチの卵を産まなくなると、生まれてくるのは雄蜂と新しい女王蜂だけで、これらは巣から飛び去るだけで幼虫に餌を持ってきたりしませんから、幼虫が育たなくなり、働き蜂と幼虫の数のバランスが崩れてコロニーが崩壊しはじめます。幼虫から蜜をもらえなくなった働き蜂は、花の蜜を吸ったりして凌ぐのです。
私がみたサザンカの花の上のスズメバチは、サザンカの蜜を吸いながら寿命が尽きたか、あるいは寒波が訪れてそのまま花の上で凍え死んだか、そんな所だったのでしょうか。