【No.33】スミレの話② 大盛弁当の店 アオイスミレ
アオイスミレ(スミレ科) Viola hondoensis
アオイスミレです。低山の樹林の林縁や、林道の脇なんかでみかけます。
あー、写真が良くないですね。何か手前に写りこんでるし。ちゃんとどけてから撮れよな。
あと、角度が良くない。花の芯が見えない。
まあ、最初のは私の完全なミスなんですが、次のやつは、ちょっと仕方ない部分もある。
アオイスミレ、こんな風に側花弁が横に開かずに前に出るんですね。そう、「前にならえ」みたいな感じで。
正面から撮ると、こう。
ちょっと残念な感じ。
<アオイスミレの花>
アオイスミレは、開花期が3~4月で、一番早く咲くスミレのひとつ。
早咲きのスミレはもうひとつ「ヒナスミレ」というのがあって、これはもう少しだけ高い山に生えるイメージがあります。関東だと奥多摩の御前山の山頂付近に、カタクリと一緒に生えています。青みのほとんど混じらないピンクの花が咲きます。大変美しいものです。
<もうひとつの早咲き種 ヒナスミレ>
ただし、これらの早咲きのスミレは開花期がとても短く、あっという間に花が終わってしまいます。これはどうやら地温の上昇と関係があるらしく、地温が上がると、蕾が普通の花ではなく、花びらのない「閉鎖花」というものに変わってしまいます。見た目は、いきなり果実が出てくる感じですね。
これは、多かれ少なかれスミレ属全般に共通する性質で、初夏以降も花は着くのですが、全て「閉鎖花」になります。早咲きの種はこの地温の変化に特に敏感なようです。
私は昔、やはり早咲きの「アケボノスミレ」を鉢植えで育てたことがあるのですが、株は順調にどんどん大きくなるのに花が一向に咲かない。で、調べてみると、どうやら鉢植えだと地温が上がってしまって、スミレが「春が終わった」と勘違いするせいだった、ということが分かったのです。
アオイスミレには、もう一つ注目すべき性質があります。
スミレの種子散布は二段階式になっていて、はじめは実のさやが3つに裂開し、それが乾燥してくると、縮んで中にある種子を弾き飛ばします。ちょうど枝豆を食べる時に、指でつまんで口の中に飛ばす、あんな感じ。
そうやって飛ばした種子は、今度は蟻が運びます。
なんで蟻が種子を運ぶのかというと、スミレの種子には「エライオソーム」という、言ってみれば「蟻のお弁当」がついていて、蟻はそれを目当てに種子を巣に運びます。で、エライオソームを食べ終わった種子は、巣から遠い所へ捨てに行きます。これで種子散布完了です。
ところが、アオイスミレはこの最初の「種子を弾き飛ばす」散布をやりません。熟した実からは、種子がポロポロと地面にこぼれるだけ。完全に蟻による散布に頼る方式です。
その代わり、アオイスミレのエライオソームは、他種よりも大きい。これで蟻のモチベーションを上げて、より遠くの巣から種子を取りに来てもらおう、というわけです。まあ、部活の男子高校生をターゲットにした大盛弁当専門店、みたいな感じですかね。
アオイスミレという名は、葉の形から来ています。
葉は丸く、先が尖らない。これを「葵」の葉に見立てた名前です。葉は開花時には小さいのですが、夏になると大きくなり、より「葵」っぽくなります。
この葉、よく見ると、花屋で時々見かけるヨーロッパ産の「ニオイスミレ」によく似ています。実はアオイスミレはニオイスミレの仲間。ただし、香りはありません。
というわけで。
花も大きくないしきれいに開かないし、色も普通だし香りもないし、まあ地味なスミレです。
でも、早春の山でこれが咲いているのを見つけると、私なんかは結構嬉しくなりますね。
なにしろ、アオイスミレの花の季節は、あっという間に終わってしまいますから。




