表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あてどない植物記  作者: 蘭鍾馗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/95

【No.33】スミレの話② 大盛弁当の店 アオイスミレ

アオイスミレ(スミレ科) Viola hondoensis

挿絵(By みてみん)


 アオイスミレです。低山の樹林の林縁や、林道の脇なんかでみかけます。


 あー、写真が良くないですね。何か手前に写りこんでるし。ちゃんとどけてから撮れよな。

 あと、角度が良くない。花の芯が見えない。

 

 まあ、最初のは私の完全なミスなんですが、次のやつは、ちょっと仕方ない部分もある。

 アオイスミレ、こんな風に側花弁が横に開かずに前に出るんですね。そう、「前にならえ」みたいな感じで。

 正面から撮ると、こう。

 ちょっと残念な感じ。


<アオイスミレの花>

挿絵(By みてみん)



 アオイスミレは、開花期が3~4月で、一番早く咲くスミレのひとつ。


 早咲きのスミレはもうひとつ「ヒナスミレ」というのがあって、これはもう少しだけ高い山に生えるイメージがあります。関東だと奥多摩の御前山の山頂付近に、カタクリと一緒に生えています。青みのほとんど混じらないピンクの花が咲きます。大変美しいものです。


<もうひとつの早咲き種 ヒナスミレ>

挿絵(By みてみん)


 ただし、これらの早咲きのスミレは開花期がとても短く、あっという間に花が終わってしまいます。これはどうやら地温の上昇と関係があるらしく、地温が上がると、蕾が普通の花ではなく、花びらのない「閉鎖花」というものに変わってしまいます。見た目は、いきなり果実が出てくる感じですね。


 これは、多かれ少なかれスミレ属全般に共通する性質で、初夏以降も花は着くのですが、全て「閉鎖花」になります。早咲きの種はこの地温の変化に特に敏感なようです。


 私は昔、やはり早咲きの「アケボノスミレ」を鉢植えで育てたことがあるのですが、株は順調にどんどん大きくなるのに花が一向に咲かない。で、調べてみると、どうやら鉢植えだと地温が上がってしまって、スミレが「春が終わった」と勘違いするせいだった、ということが分かったのです。



 アオイスミレには、もう一つ注目すべき性質があります。


 スミレの種子散布は二段階式になっていて、はじめは実のさやが3つに裂開し、それが乾燥してくると、縮んで中にある種子を弾き飛ばします。ちょうど枝豆を食べる時に、指でつまんで口の中に飛ばす、あんな感じ。


 そうやって飛ばした種子は、今度は蟻が運びます。

 なんで蟻が種子を運ぶのかというと、スミレの種子には「エライオソーム」という、言ってみれば「蟻のお弁当」がついていて、蟻はそれを目当てに種子を巣に運びます。で、エライオソームを食べ終わった種子は、巣から遠い所へ捨てに行きます。これで種子散布完了です。


 ところが、アオイスミレはこの最初の「種子を弾き飛ばす」散布をやりません。熟した実からは、種子がポロポロと地面にこぼれるだけ。完全に蟻による散布に頼る方式です。


 その代わり、アオイスミレのエライオソームは、他種よりも大きい。これで蟻のモチベーションを上げて、より遠くの巣から種子を取りに来てもらおう、というわけです。まあ、部活の男子高校生をターゲットにした大盛弁当専門店、みたいな感じですかね。


 アオイスミレという名は、葉の形から来ています。

 葉は丸く、先が尖らない。これを「葵」の葉に見立てた名前です。葉は開花時には小さいのですが、夏になると大きくなり、より「葵」っぽくなります。

 この葉、よく見ると、花屋で時々見かけるヨーロッパ産の「ニオイスミレ」によく似ています。実はアオイスミレはニオイスミレの仲間。ただし、香りはありません。


 というわけで。


 花も大きくないしきれいに開かないし、色も普通だし香りもないし、まあ地味なスミレです。

 でも、早春の山でこれが咲いているのを見つけると、私なんかは結構嬉しくなりますね。


 なにしろ、アオイスミレの花の季節は、あっという間に終わってしまいますから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ