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あてどない植物記  作者: 蘭鍾馗


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【No.32】スミレの話① まあ七割はこれ タチツボスミレ

 ようやく春になって参りました。

 私は今週一杯は仕事が年度末進行でばたばたですが、それはそれとして、春の花はもう咲き始めています。


 で、しばらくスミレの話をしようかと。

 スミレ、実は結構面白いんですよ。


 ◇


 日本は「ユリとスミレの国」だと、以前読んだ本に書いてありました。


 ユリについては、日本の野生種は大変美しい種が多く、園芸種のほとんどに日本産の原種が交配されています。まさに「ユリの国」です。


 ではスミレは?

 日本のスミレは交配が難しいため園芸化は進んでいませんが、世界に400種あると言われるスミレ属のうち、約50種が自生しています。世界の陸地の約0.3%を占める日本の国土に、約12.5%のスミレが生えているということで、そう言われるらしいです。

 

 うーん。

 ユリと違って、何かあまりピンときませんけどね。


 ◇


 では、スミレの話行きます。

 最初はこれ。タチツボスミレ。


タチツボスミレ(スミレ科) Viola grypoceras

挿絵(By みてみん)


 私は良く冗談半分で言うんです。


「これ何ていうスミレ?って聞かれたら、『タチツボスミレ』って答えておけば、まあ7割くらいは当たるよ。」って。冗談半分ですから半分は本当。多分、日本で一番良く見かけるスミレです。7割はそんなに大袈裟じゃないんじゃないかな。


 花は淡紫色で3cmくらい。他のスミレと比べると葉が小さいので、その分花が良く目立ちます。香りは普通ありません。生育環境は割と多彩で、普通は道端や草地ですが、樹林の林床に生えることもあります。

 

 タチツボスミレには、変種や近縁種が幾つかあります。


 これは渓流の岩の隙間や砂の上なんかに生えるケイリュウタチツボスミレ。葉の付け根があまりへこまないのが特徴。花はタチツボスミレよりちょっとほっそりした感じのものが多いようです。


<ケイリュウタチツボスミレ>

挿絵(By みてみん)


 これは葉がちょっと長いナガバタチツボスミレ。葉が少し長め。葉脈に赤い筋が入るものが多いようです。花が終わって茎が立ち上がってくると、葉がより長くなってきます。


<ナガバタチツボスミレ>

挿絵(By みてみん)


 ニオイタチツボスミレです。弱い香りがあります。花の真ん中の白い部分と紫色の部分の境目が、タチツボスミレよりはっきりしているのと、茎にごく短い毛が生えているのが特徴。


<ニオイタチツボスミレ>

挿絵(By みてみん)


 他にも近縁種はまだあるのですが、キリがないのでこれくらいにしておきます。


 タチツボスミレの仲間は、早春に開花し始めた頃は茎が目立たず、地面から葉が出ているように見えますが、生長するに従い段々と茎が長く伸びてきます。これは、タチツボスミレの仲間の大きな特徴のひとつ。


 タチツボスミレの開花期は、ソメイヨシノの開花期とほぼ同じくらいなので、桜の木の下にタチツボスミレが群生して薄紫の花を沢山咲かせているのを良く見かけます。桜との競演はなかなか見事なものがあります。


 あまり注目されない、ありふれた野草ではありますが、身近な場所で春の到来を感じさせる花のひとつではないかと思います。


 花言葉は、「小さな幸せ」、「つつましい幸福」だそうです。

 いかにもそんな感じの花ではありますね。









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