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あてどない植物記  作者: 蘭鍾馗


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【No.27】スプリングエフェメラル⑥ チューリップとリコリス アマナ、キツネノカミソリ

アマナ(ユリ科) Amana edulis

挿絵(By みてみん)


 アマナです。


 今まで紹介したような樹林の林床に生える種ではなく、丈の低い草地に生えます。でも、これもスプリングエフェメラル。田畑の畔や堤防など、人の手により草刈りされて管理される半自然草地に生えます。

 春は草刈りされて明るい状態で芽吹き、花を咲かせます。そして、チガヤ等、アマナよりも背の高い草が芽を出して生長する5月頃には、生育地はこれらの背の高い草に覆われて暗くなるので、アマナは葉を枯らして休眠します。つまり、落葉樹が背の高い草に置き換わっただけで、生活史は他のスプリングエフェメラルと同じ。

 学名のedulisは「食べられる」という意味。和名のアマナも、球根が甘く食べられることから来ているので、和名も学名も同じような意味の名前がついていることになります。属名のAmanaも、もちろん和名のアマナから。


 実はこれ、チューリップに大変近縁です。


 以前はチューリップと同じTulipa属に分類されていたくらいですが、新しい分類ではAmana属として独立しています。背丈は十数cmくらいで、花径は3cmくらい。とても小さいのですが、白い粉を吹いたような青白い葉の感じはチューリップに良く似ています。

 花は大きく開き、花弁の先も尖っているので、チューリップとはだいぶ感じが違いますが、最近園芸店で良く見かけるようになった「原種チューリップ」の花を見たことがある方なら、チューリップの仲間だと納得するはず。あと、実は雌蕊の形がチューリップにそっくりです。


 アマナ属、日本にはもう一種あります。ヒロハノアマナ。葉がアマナより少し幅広で、真ん中に白い筋があるのが特徴。ちょっと写真が良くないのですが、これ。


ヒロハノアマナ(ユリ科) Amana erythronioides

挿絵(By みてみん)


 

 もう一種、花壇で良くみる花と同じ仲間のスプリングエフェメラルがあります。キツネノカミソリです。


 これはヒガンバナと同じ仲間。ヒガンバナの仲間の原種や交配種は、近年は「リコリス」の名で球根草花として育てられます。以前2回ほど出てきた「ショウキズイセン」もこの仲間。あとは夏にピンクの花を咲かせる「ナツズイセン」なんかも良く植えられます。リコリスの仲間は色彩豊かで、これだけでも結構豪華な花壇が作れたりします。


 花は鮮やかな朱色。夏の緑の木陰でこの色は大変目立ちます。ところがこの朱色は日光で色褪せしやすく、夏に直射日光が当たるような所で咲かせると、花が白っぽくなってしまいます。夏に地面の温度が上がるので、多分生長にも影響するでしょう。なので、カタクリと同じく、落葉樹林の林床が生育に最適な環境です。だから花壇に植えるのはちょっと難しいかな。

 

キツネノカミソリ(ヒガンバナ科) Lycoris sanguinea

挿絵(By みてみん)

 

 で、ヒガンバナの仲間は、普通秋に葉を出して、冬の間葉を茂らせて光合成をするのですが、このキツネノカミソリは、早春の3月頃に葉を出して、6月には早々に葉が枯れてしまいます。

 葉がヒガンバナよりやや幅広で、色が薄い。


<キツネノカミソリの葉>

挿絵(By みてみん)


 花は、休眠中の8月に咲きます。葉がない状態で花だけ咲くのはヒガンバナと同じ。なので、「花だけ夏に別途咲かせる、ちょっと変わったスプリングエフェメラル」であると考えることができます。


 実はリコリス属で日本原産の種は、このキツネノカミソリだけ。他にオオキツネノカミソリとムジナノカミソリというキツネノカミソリの変種が2つありますが、これら2変種も含めて、日本固有種です。 


 キツネノカミソリは、クリ園の管理に生活史がうまく合致するらしく、クリ園の林床に沢山の開花がみられることがあります。また、カタクリ群落の中に生えていることが良くあるので、カタクリで有名な場所に8月頃行くと、キツネノカミソリが咲いていることがあります。


 栃木県佐野市の三毳山みかもやまなんかお勧めですね。


 以上、これにてスプリングエフェメラルの話は終了です。

 次回、ちょっとひと休みを挟んで、通常運転に戻ります。





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