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あてどない植物記  作者: 蘭鍾馗


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【No.26】スプリングエフェメラル⑤ 体力ある人希望 エンゴサクの仲間

ヤマエンゴサク(ケシ科) Corydalis lineariloba var. lineariloba

挿絵(By みてみん)


 ヤマエンゴサクです。これでもケシ科です。高山植物のコマクサにちょっと近い仲間。

 春、落葉樹林の林床で、淡青~青紫色の、ちょっと変わった形の花を咲かせます。

 この、赤味の少ない淡青紫の花色は、他ではみられないこの属独特のもの。ケシ科ですから、なんとなく「ヒマラヤの青いケシ」を連想したりします。花色の個体差は大きく、個体によっては、かなり濃い青色の花を咲かせます。

 分布は本州、四国、九州、朝鮮半島、中国東北部など。生活史は他のスプリングエフェメラルと同じく、早春に芽を出してすぐに花を咲かせ、6月までには地上部が枯れて休眠します。

 ちなみに、東北から北海道の日本海側には、よく似たエゾエンゴサクが分布します。芽が出たばかりのちょっと小さな株の写真しかありませんが、これも青みの強い花色です。


エゾエンゴサク(ケシ科) Corydalis fumariifolia subsp. azurea

挿絵(By みてみん)


 また、同じ属の近縁種で、こんなのもあります。


ジロボウエンゴサク(ケシ科) Corydalis decumbens

挿絵(By みてみん)


 ジロボウエンゴサクは、ヤマエンゴサクに較べると花色の赤味が強い。花色はこの種も個体差が大きく、写真の個体は花色がかなり濃いものです。ちなみに「ジロボウ」は「次郎坊」で、子供の遊びでこの花をからませて引っ張り合い、ちぎれた方が負け、という「花相撲」に使われる時に、スミレを「太郎坊」、このジロボウエンゴサクを「次郎坊」と呼ぶことからついた名前だそうです。


 名前からして、多分スミレの方が強いんでしょうね。



 「で、エンゴサクって何?」


 漢字で書くと「延胡索」。中国産のこの仲間で漢方薬として使われる「延胡索」という薬草があり、それに似ていて山に生えることからついた名前です。ちなみに延胡索の薬効は、痛み止めや血流の改善、月経不順などに効くそうです。


 エンゴサクの仲間は、写真を見て分かる通り、花の形が面白い。花びらは4枚ですが、うち2枚が濃い色で開いており、その中に、白っぽい小さな2枚の花弁があります。で、この白っぽい2枚は閉じていますが、これで開花した状態です。花茎は細長い花の真ん中くらいに着いており、後ろ半分が「きょ」と言われる部分で、ここに蜜が溜まります。

 

<エンゴサク属の花の構造>

挿絵(By みてみん)


 なんでこんな面倒くさい構造になっているのか。それは、この構造によって、花粉を運ぶ「送粉者ポリネータ」を選別するためです。


 この花の蜜を吸うためには、白っぽい2枚の閉じた花びらをこじ開けて口吻を差し込む必要があります。それには、ある程度の力が必要。ハナアブ類はこの白っぽい花びらをこじ開けることができません。つまり、年収……じゃなかった体力のあるハナバチ類に送粉者を限定することで、より遠くへ花粉を運んでもらいたい、という意図があるのです。

 スプリングエフェメラルですから、開花期は短いし、まだ寒い時期ですから虫も夏ほど多くない。せっかく咲かせた花なのに、それが隣の花に受粉させて終了、では自家受粉になってしまう可能性が高い。そこで、なるべく遠くの株に花粉を運んでもらうために、こういう凝った仕掛けを作って、送粉者の能力を試しているわけです。


 ちなみに、カタクリの花が下向きに咲くのも同じ理由。ハナアブ類は逆さに止まることが苦手なので、下向きに花を咲かせることで、ハナバチ類だけが訪花できるようにしているのです。







 


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