【No.2】なるようになる ヤマユリ
私が長年撮り溜めていた野生植物の写真の中から、適当にピックアップして、その種にまつわる思い出などを文章にして、一種ずつ紹介していきます。
蘭鍾馗の、まじめな方のエッセイです。
ヤマユリ(ユリ科) Lilium auratum
ヤマユリは、日本特産の大変美しいユリです。
本来の生育環境は、やや明るい半日陰の林床や林縁ですが、足下の地面が草などで覆われていれば、日向でも意外に良く育ちます。
ヤマユリは地面に日があたって地温が上がることを嫌います。庭に植えたヤマユリが上手く育たない、というのは、大抵地面が剥き出しになっていて、地温が上がってしまうためであることが多いのですが、逆にここがクリアできていれば、意外に丈夫で、まさかこんな所に、というような場所にも生えることがあります。
例えば高速道路の法面。東北道や中央道の法面には、意外な程多くのヤマユリが生えていて、7月頃になると白い大きな花が沢山咲いているのが確認出来ます。これは、法面に生えるススキ等が足下を覆ってくれているためだと思われます。
拙作の短編「御霊櫃峠」では、峠を象徴する花として登場させました。
御霊櫃峠のヤマユリは、芒と躑躅の藪で地面が日陰になることで、強い陽射しに耐え、また、背丈を低く抑えることで藪の中に隠れ、強風をやり過ごして、この過酷な峠で生き残ることに成功したのでしょう。
<ヤマユリが咲く御霊櫃峠の風景>
それにしても、ヤマユリの花は大きい。直径は15~18cmにもなります。なぜこんなに大きいのか?
大きな理由のひとつは、主な送粉者がアゲハチョウの仲間であること。チョウがヤマユリの花に止まって蜜を吸う時、雄蕊の先についた葯が翅に触れ、粘着性のある花粉が翅に着きます。これが次の花に止まる時に、前に突き出た雌蕊に触り、受粉が行われるわけです。普通の花は虫の頭や胴体などに花粉をつけて運ばせることが多いのですが、ユリの仲間はアゲハチョウの大きな翅を利用するために、こんなに大きな花が必要になる、というわけです。
でも、花がここまで大きいと、色々と不都合も生じます。
一番の問題は、花が重いこと。それと、その割に茎が太くないこと。
ヤマユリは背丈1~1.5mほどになる大型の草本ですが、その茎は、背丈の割にそんなに太くありません。なので、花期になると、せっかく高く伸ばした茎が、花の重さでしなだれてしまい、地面の近くで咲いている株を良く見かけます。また、ヤマノイモ等のつる草にからまれると、つるに引き寄せられて茎が弓なりに曲げられてしまい、やはり地面近くで咲くはめになります。
「いや、こうなるの最初からわかってたよね?」と、私なんかは言いたくなるのですが。
でも、ヤマユリは、その辺あんまり気にしていないように見えます。
高速道路の法面や、栄養の少なそうな急な崖、強風吹きすさぶ峠の藪の中など、「なんでわざわざそんな所に?」というような場所に、ヤマユリは居ついて、毎年のように平然と、あの大きな花を咲かせるのです。
「大丈夫、なるようになるから。」
ヤマユリを見ていると、そう言われているような気がします。