【No.23】スプリングエフェメラル② 片栗粉の秘密 カタクリ
カタクリ(ユリ科) Erythronium japonicum
カタクリです。
その大きな紅紫色の花、身近な里山に大群落を作る性質などから、日本のスプリングエフェメラルの代表と言ってもいいでしょう。
北海道、本州、四国、九州、朝鮮半島、千島列島、サハリン、ロシア沿海州等に分布し、落葉樹林の林床に群生します。特に日本海側の多雪地に多く、4月頃に行くと、落葉樹林の林床に見渡す限り咲いているような場所もあります。一方、太平洋側では大きな群落は稀で、北向き斜面に多いと言われます。
本来の生育環境は、ブナ林などの林床です。
関東以西の低地などでは、樹林は放っておくとシラカシ等の常緑樹林になってしまうため、カタクリは生育できません。そこで、コナラやクヌギの生える半自然林、昔は薪をとったり炭を焼いたりするために15~20年位の伐期で管理されていた、いわゆる「里山」を選んで生育します。人の生活に寄り添って生きて来た植物、と言ってもいいでしょう。
カタクリの葉は、ユリ科の多くの種のような、細長くて葉脈が平行に走る葉ではなく、幅広い楕円形で、網状の葉脈を持ちます。これは、日陰に生える植物に良くみられる特徴です。カタクリは落葉樹の葉が芽吹く前に葉を出しますから、明るい環境を好みはしますが、あまりに強い日差しは苦手なのかも知れません。
その証拠、という訳でもないのですが、カタクリの葉の表側には紫色の斑紋があります。この斑紋は、強い日差しを適度に遮る日傘のような役割を果たしていると考えられます。斑紋の数や色の濃さには個体差がありますが、斑紋が全く無いものは稀です。
<カタクリの葉(斑紋が濃い個体)>
じゃあ、そろそろ片栗粉の話をしましょうか。
今現在スーパー等で売られている片栗粉は、全てジャガイモが原料。でも、昔はこのカタクリの球根から作っていたのだそうです。今ではちょっと考えられませんが。
しかし、考えてみれば、昔の日本にはジャガイモもサツマイモもまだありません。畑ではサトイモが育てられていたくらい。山へ行くと自然薯やヤマユリ、ウバユリ等がありますが、「澱粉を採る」という目的を考えると、潰して水にさらすというやり方で採るためには、サトイモや自然薯は粘りが大変邪魔。ヒガンバナもありますが、毒があるので水に晒す回数がかなり余計に必要。となると、ヤマユリ、ウバユリ、カタクリといった辺りが現実的に利用可能だったでしょう。その中で、資源量と掘る手間を考えるならば、昔は里山に山ほど群生していたであろうカタクリは、一番利用しやすかったのかも知れません。
実はこの間、仕事でカタクリ自生地の土壌調査をやりました。
「土壌断面調査」という調査で、深さ1m✕幅50cmの穴を掘って、土壌の断面を出し、土壌の層の様子や土色、硬さ、根の入り具合などを調べる調査です。
いや、本っ当に掘りたくなかったですよここは。南限に近い場所の小規模な自生地でしたから。でも、これもカタクリ自生地の環境条件を調べるためですから仕方ありません。本当は1m✕1mでやるのですが、手加減して幅だけ半分にして掘りました。
掘ったら、やっぱり出てきました。カタクリの球根。
大きさは、ちょっと立派なラッキョウくらい。ヤマユリなんかに較べるとずいぶん小さなものです。昔は本当にこれ掘って片栗粉採ってたの?
どれだけの数の球根を掘らないといけないか、また、どれだけ手間がかかっていたのか。そんなことを考えると、多分、昔は片栗粉は大変な貴重品だったはず。
ちなみに、調査で掘ったカタクリの球根は、穴を埋め戻す時にちゃんと植え直しました。
カタクリは「秋の10月頃に根だけを出して、地下で活動を開始する」という説があるので、この間自生地を掘った時には、もう根が出ていて、掘る時に根を傷めてしまうのではないかと心配していたのですが、いざ掘ってみると、根は全く出ていませんでした。となると、秋に根を出して活動を開始するという説、本当なのか?という疑問が湧いてきます。冬にまた一度根が枯れて休眠する、という可能性もありますが、本当のところどうなんでしょう?
秋に自生地を掘る機会があれば、検証できますけどね。
まあ、そんな機会はないだろうな。




