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あてどない植物記  作者: 蘭鍾馗


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【No.22】スプリングエフェメラル① 石灰岩地に咲く フクジュソウとセツブンソウ

 フクジュソウとセツブンソウです。

「スプリングエフェメラル」の中でも、特に早咲きの2種。どちらも2月頃から咲き始めます。


フクジュソウ(キンポウゲ科) Adonis ramosa

挿絵(By みてみん)


セツブンソウ(キンポウゲ科) Eranthis pinnatifida

挿絵(By みてみん)


 フクジュソウの分布は広く、北海道、本州、四国、九州に分布します。

 しかし、自生地は限られており、同じスプリングエフェメラルでも、ニリンソウやキクザキイチゲにくらべると、自生する株を見る機会は大変少ない。

 セツブンソウは本州の関東地方以西に分布します。これも、ニリンソウやキクザキイチゲにくらべると、自生地は非常に少ない。


 これには理由があります。どちらも、石灰岩地に好んで生育するからです。なので、分布自体は広い範囲に亘っても、その広い範囲内で石灰岩がある場所は限られますから、それに制限される形で、自生地は小規模なものが散在する形になります。そういう訳で、分布が広い割には目にする機会が少ないことになります。


 石灰岩地の土壌はアルカリ性で、土壌中にカルシウムが過剰となり、その影響で植物の必須元素であるカリウムやリンが不足しがちとなります。そのため、こうした栄養条件の悪さに耐えうる種のみが生育できます。

 また、石灰岩は風化しにくいため土壌の発達が悪く、しかも水はけが良すぎて乾燥しがちであるため、樹林ができにくく、樹林内も下層植生の発達が悪い傾向があります。


 では、フクジュソウやセツブンソウは、こうした環境が本当に好きなのでしょうか?


 フクジュソウやセツブンソウを育てたことのある方ならご存じでしょうが、どちらも普通の園芸用土で良く育ちます。土に石灰岩のかけらを混ぜてやらないと駄目、みたいなことはありません。

 ということは、石灰岩が好きなのではなく、石灰岩地に耐えられるから生えている。

 

 ここから先は仮説ですが、フクジュソウやセツブンソウは、同じような環境に生える他の植物と比べると、生長の早さや繁殖力といった、種としての競争力が劣るのではないか。そこで、たまた持っていた「石灰岩土壌に耐えられる」という特技を生かして、他の植物がなかなか入って来れない石灰岩地に逃げ込んで生育しているのではないか?


 そもそも、「スプリングエフェメラル」であるという時点で、林床植物の過酷な競争から逃れてきたことにもなるわけで。そこからさらに追われて石灰岩地に逃げ込んだ、と。


 こういうふうに、その種が本当に好きな環境と、その種が実際に自生している環境とが一致していない、というのは、実は割と良くある話です。


 例えば、トチノキやカツラ。本来の生育環境は渓谷。沢沿いの崩壊地なんかに生育します。奥入瀬渓谷なんかには、ひとかかえもあるようなトチノキやカツラの大木が多くみられます。でも、これら2つの樹種は、街路樹として良く使われることでも知られる木。都内だと大手町や霞が関あたりの、官公庁の並ぶ国道沿いに、立派なトチノキやカツラの並木があります。生育も旺盛で、不向きな環境に無理やり植えられて弱っている、といった感じは見受けられません。


 また、庭や花壇に良く植えられるシラン。あれも実は本来の自生地は渓谷の岩場などの厳しい環境ですが、いざ栽培してみると、「花壇に植えて育つ唯一のラン」と言われるくらい栽培は容易。これもまた、他の植物との競争に負けて、こうした厳しい環境に逃げ込んだ可能性が高いと思われます。


 そんなわけで、フクジュソウとセツブンソウ、他の植物に比べ、決して強くないが故に、逆に過酷な環境に逃げ込むことで、小さな自分たちの王国を作り上げた、というストーリーはどうでしょう。


 まあ、あくまで仮説。検証のしようはないんですけどね。


 

 







 


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