【No.11】エビ茶が消えない理由 ニワゼキショウ
ニワゼキショウ Sisyrinchium atlanticum アヤメ科
ニワゼキショウです。庭の芝生や道端なんかによく咲いているあれ、ご存じの方も多いと思います。北米原産の外来種です。花がきれいなので、もともと観賞用に入って来たものかと思っていたら、調べてみるとどうもそうではなく、単に雑草として入ってきて繁殖したもののようです。
花は白に中心が紫のものと、全体がエビ茶色みたいなくすんだ紫になるものの2種類があります。数としては明らかに白花の方が多いようですが、エビ茶も時々見かけます。
花の形はユリ科やヒガンバナ科を連想させますが、分類はアヤメ科。葉をみると納得します。真ん中から折りたたまれたような葉はアヤメやカキツバタによく似ていて、まさにアヤメのミニチュアといった感じ。なお、アヤメ科とユリ科、ヒガンバナ科の一番わかりやすい違いは雄蕊の数。ユリ科とヒガンバナ科は6本ですが、アヤメ科は3本です。
一般に、同じ種の中では花色は一つ。突然変異で白花等の違う色が出ても、普通は稀に見つかるのみで、こういう色違いのものが大きな割合を占めることはありません。ところが、ニワゼキショウは白とエビ茶が結構な割合で混ざります。私の感覚だと3:1~4:1くらいかな。多いのは白花の方ですが、場所によってはエビ茶が多い所もあったりします。
この2色の花色、発現する遺伝子は、シロバナマンジュシャゲの所で出てきたあれ、「対立遺伝子」の関係にあります。つまり、遺伝子の発現力に優劣があって、ニワゼキショウの場合は白が優性、エビ茶が劣性の関係にあります。仮に白花になる遺伝子をA、エビ茶になる遺伝子をaとしておきましょう。すると、受粉した時の雌雄の組み合わせがAA,Aa,aAの時は白花、aaの時だけエビ茶になります。つまりエビ茶の花が咲く確率は4分の1ということになります。
ところが、この2タイプ、花の色だけではなく、繁殖力にも差があります。白花の方が繁殖力が強く、それに比べるとエビ茶は繁殖力が弱い。するとどうなるか。だんだんと白花の割合が増えて、エビ茶は白花に駆逐されてなくなってしまうのでは?
でも、実際にはエビ茶の個体はなくなりません。それには理由があります。
白花になる遺伝子の組み合わせは、AA,Aa,aAですが、この白花同士で繁殖力を比較すると、実はAAよりもAa,aAの方が強い。従って、エビ茶の遺伝子aを半分持ったものが、実は一番繁殖力が強いのです。で、AaやaAの遺伝子を持った個体同士が交配すると、一定の割合でaaのエビ茶の個体が生まれます。こういうちょっと面白い仕組みで、エビ茶の花は絶えることなく存続し、結果、同じ種の中で2色の花色が混在しているのです。
ニワゼキショウ、他にも幾つか種類があります。
オオニワゼキショウはニワゼキショウの白花に似ていますが、うっすらと水色がかった花色。背丈はニワゼキショウより大きいのですが、花はむしろ小さい。
アイイロニワゼキショウは、その名の通り綺麗な青い花を咲かせます。花びらの先が針のようにとがるのが特徴。
キバナニワゼキショウは黄色に茶色の筋が入った花を咲かせます。
<ニワゼキショウその他3種>
私が見たことがあるのはこれくらいですが、近年になって観賞用に輸入されて野生化した種もあったりして、まだまだ多くの種が生えているそうです。
幸いなことに、繁殖力は強いのですが在来種を駆逐するほどでもないらしく、セイタカアワダチソウのように問題となったという話は、今のところないようです。




