【No.10】赤✕黄=白? シロバナマンジュシャゲ
シロバナマンジュシャゲ(ヒガンバナ科) Lycoris x albiflora Koidz.
白い花のヒガンバナ、時々見かけるやつです。
これ、ヒガンバナが突然変異で白くなったものではありません。実は赤いヒガンバナと黄色いショウキズイセン(No.1のショウキランで出てきたやつです。ここでは、「ショウキズイセン」の名前を使うことにします)の交雑種とされています。
<参考:ショウキズイセンとヒガンバナ>
日本に生育する普通の赤いヒガンバナは、「3倍体」と言って、細胞内に染色体が3セット入っており、花粉や胚珠を作るために必要な「減数分裂」(染色体が2セット入った普通の細胞から、1セットずつの生殖細胞をつくるための細胞分裂)が正常にできないため、種子ができません。なので、変異個体が生まれる可能性が(ほぼ)ないのです。球根が増えて繁殖するだけなので、基本的にすべて同じ遺伝子を持っています。
一方、ショウキズイセンの方は「2倍体」なので、種子ができます。しかし、このショウキズイセンの花粉が普通のヒガンバナについても、「3倍体」のヒガンバナは胚種が作れないため、種子はできません。では、どうやってこの2種が交雑できたのか?
ヒガンバナは中国の揚子江下流域あたりが原産地だそうで、そこには種子をつける「2倍体」のヒガンバナもあります。日本国内でもこの「2倍体」のヒガンバナが稀に見つかるそうです。そしてもう片方の親であるショウキズイセンは、四国~九州、南西諸島に自生しているため、こうした地域に生えていた「2倍体」のヒガンバナとショウキズイセンが交雑したものが起源であると考えられています。これについては、最近の遺伝子解析の結果でも、シロバナマンジュシャゲはヒガンバナとショウキズイセンの交雑起源であることが示唆されています。
もうひとつ不思議なのが、花色。
赤いヒガンバナと黄色いショウキズイセンが交雑したのなら、オレンジ色になりそうなものですが、結果は白。
普通、花色などの個々の形質を決定する遺伝子は「対立遺伝子」と呼ばれ、それぞれに形質を発現する力の優劣があります。よく知られている例は血液型。A型の遺伝子とB型の遺伝子は共に優性で、両方の遺伝子を受け継ぐと血液型はAB型になります。これに対してO型の遺伝子は、A型やB型の遺伝子に対して、形質を発現する力が劣性となるため、A型やB型の遺伝子と一緒になると、AまたはB型になって、O型の血液型にはなりません。血液型がO型になるのは、O型の遺伝子が2つ揃った場合だけです。
ところが、ヒガンバナの場合、赤い花色の遺伝子と黄色い花色の遺伝子が一緒になった場合、どちらの形質も発現せずに白色になっているように見えます。どちらも劣性ということなのでしょうか?もしかしたら、赤い花色の遺伝子と黄色い花色の遺伝子は、単純な対立遺伝子の関係ではないのかも知れません。
シロバナマンジュシャゲは、よく見ると花色に赤みがさしているものや黄味がかっているものなど、いろいろと変化があります。赤いヒガンバナと違って複数の系統があるようです。
今回の写真は、ヒガンバナの名所として有名な埼玉県の「巾着田」で撮影したものです。ここには、シロバナマンジュシャゲも結構な数が咲きます。よく見ると、ヒガンバナの花色は全て同じですが、シロバナマンジュシャゲの方は、花色に微妙な変化があります。
ここは8月には、同じヒガンバナ科の「キツネノカミソリ」も咲きます。キツネノカミソリにも面白い話があるので、そのうち紹介します。




