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あてどない植物記  作者: 蘭鍾馗


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【No.9】美味しいだけじゃない ツワブキ

ツワブキ(キク科)Farfugium japonicum (L.) Kitam. var.japonicum

挿絵(By みてみん)


 今回はツワブキの話を。


 私の出身地は長崎県です。

 長崎県民は、山菜については割と淡泊というか冷淡というか、あまり熱心に採りません。旨いものが欲しかったら海へ行けば?みたいな所があります。

 でも、例外的に目の色変えて採る山菜が2種類だけあります。それがタラの芽と、ツワブキ。長崎では単に「ツワ」と呼びます。


 ツワブキは、早春の3月頃、まだ葉が開く前の葉柄を採って食べます。葉が開いてしまうと固くなって食べられないので、採れる時期は短い。なので皆、時期になると近くの山にいそいそと採りに出かけます。幸いなことに、海に近い山の中にはいくらでも生えているので、長崎の山の中はほぼツワブキだらけ。でも、そうやって毎年新芽を摘まれるせいでしょうか、あまり大きな株は見かけません。


 採ってきたら、まず頭についている開いていない葉をとります。開く前の葉は短い茶色の毛でおおわれていて、これがあるうちは食べられます。

 で、葉を取って葉柄だけになったら、皮をむきます。この皮むき作業が大変で、暫くやっていると親指の爪が黒く染まって、痛くなってきます。剥いたものは端から鍋に張った水の中へ。剥き終わったら、一度茹でます。下茹でが済んだら、適当な長さに切って油で炒めます。醤油とみりんで味付けしたら完成。

 たしか、こんな感じだったと記憶してます。ちゃんと習っとけば良かったな。

 味と香りはフキよりも濃厚で、もちもちした歯応えがあります。ご飯がいくらでも入る危険なおかずです。


 ツワブキは、美味しいだけじゃない。姿も花も美しい。

 葉の形はフキにそっくりですが、ひとまわり小さく、濃い緑色でつやがあります。葉につやがあるのは海辺に生える植物に良くみられる特徴で、葉の表面にクチクラ層と呼ばれる透明な被膜を発達させ、乾燥から身を守っていると考えられます。

 花も美しい。黄色で径3cmほどのやや薄い黄色の花を沢山咲かせます。10~12月頃の、花の少ない時期に咲くので、山の中では一際目を引きます。浜辺に生えることもありますが、潮風のせいか山の中ほど大きくはなれないようです。

 でも、こんなに大きくて明るい色の花の割には、あまり派手に見えません。なんというか、しみじみと美しい花です。和風の庭園の木の下なんかに植えると、いい雰囲気が出ます。


 サザンカと同じく、こんな時期ですが、見ているとちゃんと虫がやってきます。彼らにとってはこの時期の大事な食糧なのでしょう。







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