第3話 聖剣の罠
――良い人と出会えて良かった……。
人が一人入れるくらいの大きさの木風呂に入りながら、ミリアは人心地ついていた。
普段、大神殿からほとんど出ないミリアはここまで歩いてくるだけで足は限界に来ていた。
一応回復魔法で誤魔化していたけど、こうしてゆっくり休めると足の疲れも取れている気がしていた。
そもそもお風呂は贅沢品で、大神殿でも身を清める必要がある儀式とかの前にだけ入ることができただけ。
それがこんな田舎村で入ることが出来るなんて思いもしなかった。
――でも、“真なる勇者”様ではなかったんですよね。ううん、本人が否定してただけで違うとも言い切れないんですよね。神託によると“王国の田舎村の外れに真なる勇者が現れた”ですし、田舎村の外れっていうとここですから。
それに困っている人を救おうとする敬虔な態度。
あのお方こそ勇者にふさわしい方です。
もしかすると本人もただ気づいてないだけなのかも。
「そうです。きっと本人も気づいてないだけ! あのお方を導くのは私の役目とですね!」
唐突に湯船から立ち上がるとグッと握りこぶしを掲げていた。
その瞬間に浴室の外から声が聞こえてくる。
「お風呂の温度、大丈夫ですか?」
「あわわわっ、は、はいっ。だ、大丈夫です」
顔を真っ赤にして慌ててお風呂の中へと戻っていた。
◇◆◇◆◇◆
日の光が明るく周囲を照らし始めるタイミングで俺は起床する。
照明用の蝋もただではないために、暗くなると寝て明るくなると起きる生活を送っていたらすっかり規則正しい生活を送るようになっていた。
「さすがに床で寝ると体が痛いな」
軽く伸びをして体をほぐしていく。
俺のベッドには緩みきった表情を浮かべるポンコツ聖女が一匹。
――おいっ、人の枕に涎を垂らすな!
言いたいことは色々とあったが、この聖女を放置してもとんでもないことになりそうなので仕方ないだろう。
でも、これからも居座ってくるなら布団をもう一つくらい用意しておくべきかも知れない。
これは俺がこの聖女をどのくらいで追い出せるか次第で考えよう。
起こさないように外に出ると日課の罠に害獣がかかっていないかを調べていく。
むしろ害獣がかかっているならまだマシ。
ここ最近かかっていたのは黒幕と聖女。
何かがかかって問題が起こるのなら何もかからない方が良いまであった。
そして、今日も穴が開いているところを見ると何かが引っかかっているようだった。
――害獣であってくれ……。
本来ならば避けるべき相手なのだが、今はその方がありがたいまでもある。
平和な日常を壊してくる相手はこれ以上いらない。
スコップを片手に落とし穴に近づくとなぜかそこには一本の剣が埋まっていた。
――はぁ!?
もはや何が何かわからない。
剣が埋まっているということは間違いなく誰かが落ちたということである。
その人物が敢えてあの剣を落としていった、と見るべきだろう。
しかしあの剣、どこからどう見ても聖剣だ。
勇者にしか装備できないと言われているもので、装備レベルの条件はない。
俺の場合はただの勇者ではなく“真なる勇者”ということになっているので本当に装備できるかどうかはわからないが、それでも持ってしまったら自分が勇者だと公言してしまうような危険な剣だった。
聖女はこんなものを置いていなかったと思うので、別の誰かが俺のことを疑って置いていった、と見るべきだろう。
――また面倒ごとを……。
もしかすると俺があの剣を振れるかどうかをどこかで見ているのかも知れない。
残念ながら俺に気配を察することは出来ないので、この剣は下手に触れないほうがいいだろう。
ということで例の如く、この剣は埋めておくことにする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!? ど、どうしてその剣を埋めるんだ!?」
当然のように行動したら慌てて長身の男が現れる。
長い銀髪をした男で鋭い目つきをしていて、どこか近寄りがたい雰囲気がある。
あとはだけた服から見えているが、かなり体を鍛えているようで、細いながらも筋肉が見えている。
一方の俺は体は細いながらもそれは貧しいことが原因で、筋骨隆々とはいえない。
更に背丈も村だと平均くらいで特徴的なものは何もない。
ただ、どこかしら魔王ルシフェルに似ている気がする。
魔族の特徴たる角や背中の羽、尻尾がないのだけどもしかしたら隠せるのだろうか?
ただ魔王の割にはどこか表情が青ざめているような気もする。
まるで恐怖の対象でもいるかのように。
というかどうしてこんな村に大物ばかり集まるんだよ!?
静かに暮らさせろよ。こっちはモブなんだぞ!
とはいえ、相手は悪逆非道の魔王である。
返事をしなければそのまま屍にされてもおかしくない。
なるべく相手を怒らせないように……。
「あんなところに昨日は見なかった豪華な剣があるわけだしな。どうみても罠じゃないか?」
「う、うむ、言われてみればそうかもしれんな」
むしろ言われないと気がつかないのか?
なんてことを言って気を悪くさせるわけにも行かない。
それよりも聖剣を埋めることを優先させる。
「ちょ、ちょっと待て!? そ、その……」
「あっ、もしかしてあなたのものでしたか!? それならどうぞ」
「い、いや、そういうわけでも……」
言いにくそうに具体的なことを避けるルシフェル。
ミリアがそうだったように、ルシフェルも何か俺のことを知っているのかもしれない。
でも、魔王ルシフェルなら勇者がいるとわかれば問答無用で襲ってきそうなのだが、なんで大人しくしているのだろう?
モブの可能性を考慮しているのか?
いや、それこそおかしい。
相手がモブならそれこそ遠慮する必要がない。
容赦なく殺せばいいだけのはず。
もしかして似ているだけで本当は魔王じゃないのか?
ただ相手が魔王であろうとなかろうと俺のとる行動は一つだった。
危険には触れない。
だからこそルシフェルが何か言いたそうにしていたが、そのまま聖剣を埋めてしまう。
そして一仕事し終えたあと、俺はいつも通り畑へと向かう。
ルシフェルは聖剣が埋められた場所をいつまでも呆然と眺めていたのだった。
◇◇◇◇◇◇
昼になるとミリアが起きてくる。
「す、すみません。こんなに遅くまで。こんなゆっくり眠れたのは久しぶりで……」
「いえ、くつろいでもらえたようで何よりです」
むしろ今日はゆっくり寝ていてくれて助かったかも知れない。
魔王と聖女が対面してしまったら何かしらの騒動が起こっていてもおかしくない。
「ここまでしていただいてありがとうございます」
ミリアが頭を下げてお礼を言ってくる。
俺は苦笑をしながら頷く。
――用事が終わったのならそのままお帰りください。
なんて本音はさすがに口に出せない。
「このあと何ですけど、村のほうを見てこようと思うのですが……」
「それは良いですね」
「それであの……、差し出がましいお願いなのですが、村の案内を頼みたいのですけど……」
本音はもう関わり合いたくない。
でも、このポンコツ聖女が一人で歩き回ったところを想像する。
――村中に“真なる勇者”のことが広まるだろうな。
それは当然ながら俺の望むところじゃない。
それに案内した結果、勇者がいないとわかってくれるかもしれない。
むしろ俺が案内を誘導してそう持っていくのが一番早くこの聖女が帰ってくれるかもしれない。
そんな思惑を抱きながら俺は笑顔で頷く。
「もちろん良いですよ。では行きますか?」
「ありがとうございます」
嬉しそうなミリアと共に家を出ようと扉を開ける。
すると、玄関の先には埋めたはずの聖剣が刺さっていた。
それを見た瞬間に俺は思いっきり扉を閉めるのだった――。
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