62 モノの価値
「こっちがノーマルのスケルトングラディエーターがドロップした魔石で、こっちがネームドからの魔石と胸当てっす」
「おいおい、まさか二体も倒したのか!?」
「違うっす。ちょうどモンスター同士の戦いに決着がついたところに出くわしたんですよ。通常種の方は運よくドロップアイテムだけ拾えた感じっす」
「ほほう。そいつは運が良かったな」
それはどうだろう?本当に運が良いなら『音の出る小石』と接触事故を起こすこともなかったと思う。再び地獄の特訓を課せられたくはないから言わないけど。
「どちらも大きさは中サイズだな。品質の方は……、ネームドの魔石は文句なしの上質だな。もう片方はギリギリで中質ってところか。さすがは八十一階のモンスターだな。三十階か四十階のボスのドロップと同等だぜ」
「え?マジっすか?」
「魔石はサイズよりも品質の方が重要なんだ。それだけ多くの魔力が込められているってことになるからな。中サイズの低級よりも小サイズの最高品質の方が総魔力量は多いんだよ。だから後者の方が人気があるし値も張ることになる」
いかに大きな入れ物だろうが、そこに満たされている量が少なければ価値は低いということらしい。例えるならガソリンを買いたいとき、十リットル容器に二リットルしか入っていないものよりも、一杯まで入った五リットル容器の方が価値がある、という感じか。……あれ?なんか分かり難い?
なお、今のところ小サイズの最高品質の魔石をドロップするのは、五十階や六十階のボスに限られているそうだ。
「その上、六十階からはランク三鉱石も採掘できる……。どこの国も六十階を目標にしている理由がちょっとわかった気がするっす」
ダンジョンの外でも有用な品々を持ち帰れるとなれば、稼ぎは大きく増すだろうし、探索者としての名声も一気に跳ね上がるだろう。そしてダンジョンを管理する国などにとっては、ようやくこの時点で収支がプラスになると言えるのかもしれない。
出自が怪しい俺ですら重宝される訳だ。
「ようやく自覚が出たようだな。……詳しく説明してこなかった俺たちにも責任はあるんだが」
魔石目当てにモンスターに突撃しないように、というギルマスたちなりの気遣いだったのだろう。今でこそ小金持ちな俺だが、思ったようにイツイロカネを採掘できずに焦っていた時期もあったからなあ。
まあ、その頃のことはまた追々話す機会もあるだろう。
「ところで、この小汚い胸当てはどうする?ネームドの持ち物とは思えん粗悪な品だ、買い取っても二束三文にしかならんぞ。ショーマなら≪作業場≫でい潰して、手裏剣にでも加工した方がマシじゃないか?」
「それなんですけど、オークションに出品とかできないっすかね?」
「これを、か?」
何言ってんだお前、と言わんばかりの呆れた表情になっているギルマスである。物としては彼が言った通りなのだからそれも仕方がないというものかもな。
「質は最悪ですけど、「八十階に出現していたネームドモンスターが使い続けていた装備品」だと押し出せば、物好き連中が食いつくかも知れなくないっすか?なんなら売り文句に「世界初」とか付けても良さそうっす」
「……そういうことか。ネームドのドロップアイテムだし、やれないことはない、か……?」
ギルマスはそう呟くと顎に手を当てて考え込み始めた。これ、見ず知らずの人が目撃したら悪党の親玉が悪だくみをしている図にしか見えないんだろうな……。
まあ、耳障りのいい言葉を並べたてて金をふんだくろうとしているのだから似たようなものか。となると、俺は儲け話を持ち込んだ手下その一ってところかね。
「へっへっへ。俺っちの案はどうっすか、おやびん?」
「おやびん言うな。あと揉み手もヤメロ」
三下ロールプレイはお気に召さなかったようだ。ちょっとしたネタのつもりだったから続けるつもりもないけど。
「悪くないやり方だとは思う。珍品に目がないってやつは確かにいるからな。ヒノモトじゃギルドが一括で買い上げているが、海外の国だと探索者が直接そういった連中に売り込むってこともある。ただ、今は時期が悪い。先日の件抗議している真っ最中なんだ」
わざわざレイヤさんが出向いているみたいだし、抗議というより「次はないぞ」的な脅しに近いものだと思う。
「オークションに出そうとした場合、表立っては何も言ってはこないが、裏で嫌がらせじみた妨害をしてくる可能性が高いな」
「それ、報復だってすぐにばれて余計に関係が悪化するパターン……」
「やり返せねえと面子が潰れると思い込んでるバカが多いんだよ。あとは既に最悪だからこれ以上悪くはならないと開き直ってるケースだな」
うわあ、鬱陶しい。できることなら一生関わり合いになりたくないぞ。
しかしそうなると、「低い階で拾った代物だろう」と難癖をつけられても、右目壊しの愛用品だと証明する手立てがないのも痛いな。ちなみに、ドロップアイテムと愛用品はイコールとは限らないのだが、そこはそれというやつである。
話を戻すと、何かしらの邪魔されない手立てが必要ということになる。
「こうなったら面倒な連中をまとめて懐柔しますか。利益は全て探索者ギルドに寄付することにすれば、少しは邪魔も減るんじゃないっすかね?」
要は、お前たちにも美味しい思いをさせてやるから大人しくしてろ!ということだ。
「そりゃあ、自分たちの利幅を増やすために仕掛けてきたんだ。儲けが見込めるなら妨害をする理由もなくなるだろうな。むしろすすんで妨害を阻止しようとしそうだぜ……。だが、いいのか?あれはお前が命を張って手に入れてきたものだろう?」
「運が良いことに生活には困っていないっすからね。金でなんとかなるなら安いものっす。どっちかというと関係者面して口を出される方が厄介そうなんで」
的外れな知ったかぶりほど迷惑なものはないのである。
「ショーマの気持ちは分かった。あとはこちらに任せておけ。ダンジョンのインフォメーションに今日の分の一階の記録動画があればなんとかなるだろ。最低でも八十一階から持ち帰ったものだとは納得させられるはずだぜ」
それでも文句をつけようと思えば付けられるのだが、儲けをちらつかせることでそれらの動きを抑えることができるだろう。
すっげえ余談ですが、ガソリンをよくあるポリタンクに入れて持ち運ぶことは禁止されているそうです。
詳しくはお使いのパソコンやタブレット、スマホなどにお尋ねください。




