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41 胸騒ぎの正体

「おおっト!こいつは随分と大人数の団体様じゃないカ!」


 観光客たちの意識を集めてその場に足止めするため、まずはミックさんが接近して気さくに声をかけていく。社交的な陽キャってそれだけで強いよな……。

 こちらの世界にきて生きていくためにインタビューやらを受けたり、体験を話したりといったこともやってきたが、インドア派で根っこの部分が陰の俺としてはとても真似できる気がしない。まあ、そもそも真似したいとすら思わないんだけど。


「ミカエル様!?どうしてこちらに?」

「オーウ!その呼び方はよしてクレ!俺のことは気楽にミックと、いや、兄者(アニジャ)と呼ベ!」


 解説役のギルド職員の言葉――あの驚き具合から察するに、素の反応だったか?――に観光客たちが群がり始める。この調子なら彼は役目を問題なく果たせるだろう。

 それにしてもミックさん、兄者とかまた漫画かアニメにでも影響を受けたんじゃないか?日本食、いやヒノモト食が大好きな彼は、当然のようにサブカルチャーにも造詣が深かったりするからなあ。隣を走っているナタリーがスン……、と表情を無にしている辺り、当たらずしも遠からずな気がする。


 わらわらと観光客に囲まれるミックさんの後方では、コハルさんが草むらに隠れるようにして腰を下ろしていた。なんだ、あれ?気配というか存在感からしてめちゃくちゃ薄いんだが!?熟練のハンターというより、食物連鎖の上位捕食者といった言葉の方がしっくりきそうだぞ。

 あのあたりにいるだろうと当たりを付けていたから見つけられたけど、漠然と見ていたら絶対に見逃してたな……。


 ミスズさんも如才(じょさい)なく配置に着いたようだ。ナタリーが担当する小山ももう目の前にまで迫っている。

 ……やべえ!このままだと俺だけ出遅れることになる!?


「お先!」


 短く一言だけ告げて速度を上げる。マシにはなったとはいえ長距離持久走とかマジ勘弁なんだが、この配置を考えたのはほかならぬ俺自身なので、誰にも文句を言えなかったり……。

 とにかく、警護の穴になる訳にはいかないと自分に言い聞かせて、必死に足を動かす。持ち場に着くだけで全体力を使い果たしそう……。


 ぜいぜいと荒い息を吐きながら、倒れ込むようにして丈の長い草に身を隠す。それでも視線だけは忙しなく動き回り異変がないかを探っているのだから、俺もダンジョンでの動きに慣れたものだよな。

 ナタリーも無事にたどり着けたようで、小山の上ではミックさんよりも明るめの金髪が見え隠れしていた。高い位置ということで場所柄目立ち易いということもあるのだろうが、ベテラン勢に比べると粗が際立ってしまう。


 これまでも「もしかしたら?」とは思っていたが、ひょっとするとあの子はまだまだダンジョンでの実践経験が少ない初心者(ビギナー)なんじゃないだろうか?

 知識だけは豊富というかやたら知ったかぶりなのも、兄であるミックさん――もしくは彼の仲間たち――から色々と教わっていただと考えれば辻褄が合う気がする。


 かくいう俺もそれ程偉そうなことは言えないのだが、八十階以降を単独で動き回っているからコソコソ隠れることだけはそこそこ上手くなっているんだよ。スキルこそないままだけど、≪賢者の耳目≫に助けられている部分もあるし。

 ……などと考えたことがフラグになってしまったのか、さっそく≪賢者の耳目≫が反応をみせた。


『ロンリーウルフ、特殊個体(ネームド)〈孤高の魔狼〉。通常の個体よりも数段強化されており危険度もその分増している。隠密能力に優れており、密かに接近し一気に襲い掛かる攻めの狩りを得意とする。また、魔狼の名の通り魔法を操ることで攻守に活用する知能の高さを持つ』


 おいおいおいおい!?いきなりネームドモンスターかよ!?

 しかも強くない?強過ぎじゃない!?隠密能力に優れているだけでも大概なのに、魔法まで使えるとか二階に出現していいモンスターじゃねえぞ!?

 というかタレントが働いていなければ、俺の方がサクッと餌食になっていたかもしれない。さすがにミスズさんたちが後れを取るとは思わないが、ナタリーなら同じ展開になった可能性は高そうだ。


「うがー!くそっ!相手が悪過ぎて、胸騒ぎが外れていなくて良かったとは全く思えねえ!!」


 小声で不満を絶叫するという器用なことをやってのける俺である。なんだかこういうことばかり上手くなっているような気もするな……。


 それはさておき、俗にネームドモンスターはプラス十階分の強さがあると言われている。シコクダンジョンの十二階だと洋館風の迷路階に当たり、出現するのはゴースト、スケルトン、ゾンビというアンデッド系モンスターたちだ。

 これが十四階まで続くのだが、実は一つ手前の大部屋墓場階となる十一階も同じだったりする。


 が、孤高の魔狼の場合、そんな生易しいものではなさそうに思える。

 それというのも十代前半の階に出没するアンデッド系モンスターたちは耐性と弱点がはっきりしていることが挙げられる。物理攻撃に高い耐性を示す半面、魔法には滅法弱いのである。更に、物理攻撃も薬草を塗りたくることで攻撃力の補完が可能と、対策方法さえ分かっていれば多少地力が足りなくても十分に勝ててしまえるのだった。


 対して魔狼には明確な弱点というものがない。加えて、優れているというだけあって隠密能力はかなりのものだ。≪賢者の耳目≫のお陰で大まかな居場所こそ掴めているが、未だに目視でしっかりとその姿を確認することはできてはいなかった。


 どうする?奇襲が得意というなら、こちらのことにも気が付いていると考えた方が無難か。だとすれば大声を出してチームの皆、並びに観光客の団体に危険が迫っていることを知らせるべきか。

 ミックさんという分かりやすい戦力が居ることを前面に押し出せばパニックを防ぐことは十分可能だし、ミスズさんたちが協力してやれば避難の誘導もそれほど難しいものにはならないだろう。


 ……問題は一人だけでその時間を稼ぐことができるのかどうか、というところだな。装備が万全なら十階のボス、ゴブリンキングでもソロで倒せる俺だが、今は防具なし剣一本とその装備が甚だ心許(こころもと)ない状態だ。

 仮に遠距離からの魔法攻撃を主軸にされてしまえば、成す術もなく嬲り者にされてしまうかもしれない。


 最初の交錯(なぐりあい)で可能な限りの大ダメージを与える。

 これしか勝機はなさそうだ。


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