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23 三階タイムアタック大会

 装備品消失による八十階以降の探索とアイテム採取の頻度低下に対して、予想していたような横槍が入ったり文句を付けられたりすることはなかった。どうやらギルマスが上手くとりなしてくれたらしい。


「なあに、異世界人で正式なヒノモト国民って訳じゃねえし、文句ばかりだとメリッカー辺りに逃げられちまうぞ、って言ったらすぐに黙っちまったよ」


 とりなしというより脅しだった!?


「実際にメリッカーの高ランク探索者たちがやって来ているから、あっさりと信じ込んだぜ。世の中何がどう役に立つか分からんものだよなあ。ガハハ」


 いや、割と笑い事ではないと思うんだが!?

 というか、それを押し通せるとか、本当にギルマス――あとレイヤさんも――は過去に一体なにをやらかしたんだろう?


 なお、俺の公的な立場だが、特例で特別に認められたヒノモト国民に準ずる存在、という説明されてもよく分からないものだった。どうやら突然に元の世界に帰還する可能性がないとは言えないため、このようなファジーでアバウト感満載な扱いとなっているらしい。


「とはいえ、さすがに無条件でということにはならなかったんだがな」

「何か要求されたんですか?」

「ショーマ個人というよりはシコクダンジョンの探索者やギルド関係者に対して、といった方が適当だな」


 探索者だけじゃなくて、ギルド関係者まで?


シコクダンジョン(うち)でも三階のタイムアック大会を開催しろ、だとさ」


 全世界に点在しているダンジョンだが、実は一階から三階までは共通の形となっている。

 一階は既に説明した通り異次元アイテム倉庫があったり、インフォメーションボードがあったりといった、ダンジョンアタックのための準備をするための場所で、二階および三階はダンジョンの基礎を学ぶための階だともいえる。


 二階は二階は草原を模した大部屋階で外部の時間に応じて明るさが変化する。出現するモンスターはスライムとデカラビット、ロンリーウルフのみで、薬草が取れる採取ポイントもある。

 対して三階は坑道を模した細い道と小部屋で構成された迷路階となる。粗悪な鉱石が見つかる採掘ポイントに、宝箱や罠もこの階が初登場となる。モンスターはスライムとゴブリンだけなのだが、ゴブリンは最大で四匹まで群れることがあるぞ。


 とまあ、こんな具合に二階と三階にはダンジョンの基本的な要素が詰まっているため、チュートリアル階とも呼ばれているのだった。


 おっと、肝心なことを伝え忘れていた。迷路階となっている三階なのだが、毎月ごとに構造が変化するという特徴があった。

 ここまで言えばもうお分かりだろう。この構造変化を利用して世界規模で開催されているのが、タイムアタック大会という訳だ。


 もっとも、毎回上位を占めるのはメリッカーのような人口が多く国土が広い国のダンジョンばかりという話だ。発見されたダンジョンの総数も多ければ参加者も多いのだからさもありなん。

 ヒノモト国の場合、毎月のように大会を開催できているのは所属探索者の多いトキーオダンジョンとヤマトダンジョンの二つだけなのだそうだ。


「大会を開催しても人が集まらないんじゃないっすか?」


 俺という異分子が現れたことでシコクダンジョンに登録している探索者の数は確かに増えてはいるのだが、その大半は休日だけダンジョンに潜る兼業者やカジュアル層だ。ガチ勢と呼ばれる探索者一本で暮らしている人々はほんの一部でしかない。

 構造が変化するのは毎月の初めと決まっているため、ガチ勢以外は参加し辛いという欠点もあった。それでも開催場所が三階という序盤だけあって能力が低くスキルがなくても参加できるので、全体で見ればかなり人気のイベントということになっているようだ。


「そこはトキーオダンジョンとヤマトダンジョンの参加者をこっちに回してくれるらしい。高速道路から近い上に迷宮村も整備されているから、受け入れざるを得んだろうな……」


 確かに開催箇所が増えればその分だけ上位入賞者が出る確率は上がる、かもしれない。

 それに開店休業状態で閑古鳥が鳴き続けている迷宮村、更にはシコク地域全体の活性化に繋がるかもしれないとなれば断ることはできないだろう。それどころか、なんとしても成功させようとあちらこちらから干渉や圧力がありそうだな。


「ああ。既に地元の四県からは人が足りなければ融通すると言ってきている。そっちはまあ迷宮村限定だから構わないんだが……」


 ギルマスが問題視しているのは回されることになる探索者の方とのことだった。


「自分のところのトップランカーたちを他所へ回すと思うか?」

「あー、そういう……。納得したっす」


 おそらく対象となっているのは今一成績が振るわない連中ばかりということになるのだろう。


「中でも厄介なのは、過去には上位に食い込んだことがあるっていうやつらだな。一応実績があるから追い返すこともできん」


 過去の栄光に縋ってしまうのか、何かと横柄な態度を取ることが多いということだった。しかも今回の件は早い話が左遷のようなものだ。高くなった気位を大いに傷つけられて不機嫌になっていると考えられる訳で、ちょっとしたことでもトラブルを引き起こすかもしれない。


「迷宮村の方で騒ぎが起きることも当然厄介なんだが、それ以上にダンジョン内でどんな行動に出るのかが読めねえ。足の引っ張り合い程度の妨害ならマシな方で、最悪殺し合いまで起きるかもしれん」

「え?そこまでします?」

「どこまででも付いて回るからな。過去の栄光ってのはそれだけ面倒なものなんだよ」


 そこまでいくともはや呪縛とか怨恨とかの類のような気もするんだけど……。

 まあ、スポーツとかでも『県大会ベストエイト』みたいにやたらと過去の最高成績が引き合いに出されたりするので、そういうものなのかもしれない。え?例えが微妙?悪かったな、元の世界で通っていた学校は良くも悪くも平均的な普通なところだったんだよ。


 おっと、話がそれた。ともかくプライドをおかしな方向にこじらせたやばい連中が複数のチーム単位で送り込まれてくる、ということのようだ。しかもダンジョン内では死に戻りがあるから倫理観までぶっ飛んでいるかもしれないらしい。


 と、ここで恐ろしいことに想い至ってしまう。


「そのタイムアタックって、もしかして俺も参加しなくちゃいけにやつっすか?」

「もしもなにもショーマは強制参加だ」


 ギルマスの無慈悲な言葉に、その場に崩れ落ちてしまったのは言うまでもない。


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