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21 錯乱

 迷宮近接刀法において、【圧斬(おしぎり)】が前へ前へと出る先の先の極みだとすれば、【砕討(くだきうち)】は後の先の極みと言えるかもしれない。

 相手の力をも利用するその一撃は絶大な威力を誇り、師匠いわく「ゴーレムですら軽く粉砕する」という。


 そんな切り札ともいえる技を繰り出すことで活路を見出そうとしたのだが、その結果はというと……。


「へぶちっ!?」

「ショーマ?」


 軽い浮遊感の後に強かに尻を打ち付けてしまう。誰かに呼ばれた気がするが痛みでそれどころではないというのが正直なところだ。

 つまりは死に戻ってしまった訳で。追い詰められたギリギリの状態だったことも作用して、アーツそのものは発現させることができたのだが、いかんせん体内の燃料が足りなさ過ぎた。レッサードラゴンの頭部を破壊することができても、首から下は残されてしまったために、突進を食らってそのままお陀仏となってしまったのだった。

 要は気合や根性だけで何とかなるほど甘い相手ではなかった、ということだ。


 それでもダンジョンの慈悲もしくは気まぐれによって、こうして一階で生き返ることができているのだから幸運だったと言えるのかもしれない。

 まあ、そんなことを考えられるようになったのは翌日になってからのことなのだけどさ。何せこの時の俺ときたら、


「う、うわうわうわうわうわぐああああああああ!!!?」


 死に戻り直後の人間にありがちな、死んだことへの恐怖で見事に錯乱していたのだから。錯乱した者が取る行動は号泣するか、暴れるかの二つに分けられる。いや、両方を一緒にやるやつもいるから三つか。この時の俺はその三つ目に該当していた。


「うぎゃあああああああああああああああ!!うわああああああああああああああああ!!」


 喉が枯れるほどに絶叫しながら、ひたすら腕や足を動かし続けていたらしい。

 こうなると下手に近付くのは危険なので自傷行為が起こらない限り基本的には放置される。薄情だと思うかもしれないが、錯乱している人は近付く者全て、視界に入るもの全てを敵だと認識してしまうためこれで正解なのだ。

 加えて、この錯乱状態には自分が死んだことを理解して消化するために必要な儀式的な側面もある。一時は睡眠の魔法や鎮静剤を使って眠らせたりしていたそうなのだが、その方がかえって深い心の傷となり復帰できなくなる人が大勢出てしまったのだとか。


 大の大人が泣き叫び、駄々っ子のように暴れ回るというかなり情けない絵面だが、探索者であればそれを笑う者はいない。誰もが明日は我が身かもしれないという思いを心の奥底に秘めているためだ。

 とはいえ、黒歴史並みに恥ずかしい過去になることも事実だ。翌日になってやっと落ち着いた俺は「人が居なくて良かった……」と初めて過疎っていることに感謝することになるのだった。


 さて、死に戻ってしまったことでこの日集めたアイテムを始め、装備していた武器や防具も全てロストしてしまった。更にデスペナルティとして能力値が最後に一階にいた時の状態に戻されている。つまり、レッサードラゴンやワイバーンとの死闘の経験もきれいさっぱりゼロにされているのだ。

 一応記憶は残されているが、死に至る過程によっては絶望と苦痛でしかないので、単純に温情とは言い切れないところがあるよな……。


 そんなこんなで今回は稼ぐどころか収支はマイナス、決算書で言うところの△表記になってしまった。特に装備品のロストが痛い。一応はダンジョンの異次元アイテム倉庫に呼びの武器や防具を放り込んではいるのだが、メイン装備と比べるとかなり質が落ちてしまうのは否めなかった。


「確か、ランク三の鉱石を使っていたのだったかしら?」

「そうっす……」


 迷宮村にある探索者ギルド支部の片隅で、ぐでーっとテーブルに上体を預けながらレイヤさんの疑問に答える。

 あれから一日が経過していたのだが、死に戻ったこととその後の錯乱状態を鑑みて本日のダンジョン探索は中止となっていた俺は、何をするでもなくひたすらだらけていた。


「ランク三鉱石の武具なんて世界最高レベルですものねえ。いくら自分で調達できるとは言っても、そりゃあ凹みもするわよね」

「ぐふっ!」


 悪気はないとは分かっていてもレイヤさんの言葉が俺に突き刺さる。

 世界初のランク四鉱石となったイツイロカネは精錬することで生み出すことができる四つの素材は、武具に四元素を付与したり硬さを増すことができるという、いわば触媒的な効果を持っている。

 そのためベースとなる装備品や素材が必要になってくるのだ。現状ではそれら素材で最も重視されているのがランク三の鉱石となっているのだった。

 当然他の探索者たちにとっても垂涎の的で、その上ランク三鉱石の一つのミスリルはインフラ整備に欠かせないときている。

 そんなこんなで価値の高止まりが続いている状態なのだった。


 え?八十階に行けて自力で確保できるのだから問題ないだろう?

 ……ふ、ふふふ。その考えは甘いと言わざるを得ないな。なぜならこの世界でも『物欲センサー』なる凶悪なシステムが幅を利かせているからだよ!

 こういう時に限って採掘ポイントが見つからないのは序の口で、ようやく採掘できたと思えば手に入るのはなぜだかランク四鉱石ばかり、となってしまうのだった。


「モンスター素材も悪くはないんだけど、相性っていう点では一歩劣るのよねえ」

「そうっすよね……」

「まあ、それこそレッサードラゴンやワイバーンの素材なら違ったのかもしれないけど」

「ぐぬぬ……!」


 下位とはいえそこはドラゴンだ。偶然拾った鱗ですら他のモンスター由来の素材に比べると頭一つどころか二つ、三つくらいは抜きん出た性能だったそうだ。つまり俺は宝の山を前にして死に戻ってしまった、ともいえる。

 まあ、ワイバーンこそ二、三体は戦闘不能にできていたかもしれないが、レッサードラゴンの方は一体も倒せていなかったからなあ。生き残れる確率は限りなくゼロに近かった訳で、どちらかといえば取らぬ狸の皮算用といった方が適当かもしれない。


 いや、そもそもの話、目的は殲滅ではなくやつらを追い払うことだったんだよな。それがどうしてあんなことになってしまったのやら……。なんだか変なスイッチが入ったというか、テンションが振り切れたというか……。

 雰囲気にのまれるって怖いなあ。


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