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18 かいじゅうだいせんそう!?

 レッサードラゴンの生息地が森の中で、ワイバーンの主な飛行区域は荒れ地だという説明は既にしたと思う。

 それでは、八十一階への階段のある岩山周辺の草原はどうなのか?

 答えとしては緩衝地帯の空白地帯となる。……いや、「だった」というべきなのかもしれない。なぜなら今現在その場所で、レッサードラゴンたちとワイバーンたちによる縄張り争いが繰り広げられていたからである。


「おーう……」


 隠れて遠目から眺めつつ、そんなため息混じりの言葉しか出てこない俺である。一触即発どころか血で血を洗う大戦争が始まっており、「あ、さーせん。ちょっと通らせてくださーい」と出て行ける雰囲気ではなくなっていた。

 かといって、どちらかが勝利してしまうのも問題だ。そうなれば確実に草原は勝者のテリトリーになってしまう。そうなれば八十二階に降りてきた瞬間ガブリ!とされてしまうことにもなり得るのだ。


 安心安全な通行を確保するためにも、今後もあの場所はどちらの領地からも外れた空白地帯でなくてはいけないだろう。


「大怪獣軍団同士の縄張り争いに乱入して、どっちも追い払えとかクソゲーじゃねえか。そんなんだから過疎るんだよ。ちゃんとバランス考えろよ、運営(ダンジョンマスター)……」


 立ち回りによっては多少は減るかもしれないが、最悪の場合はその全てを同時に相手取る必要が出てくる訳で。某狩りゲームの連続で倒すクエストだって登場自体は一体ずつなんだが?

 思わず居るのかどうかも分からないダンジョンマスターに向かって文句を言ってしまう俺なのだった。


 ともあれ、なにはさておき状況を把握しないと動きようもない。という訳で現場のショーマです。

 ただ今物陰からコソコソと様子を伺っております。<隠形>やら<気配遮断>といったスキルが習得できていないもので。もちろん流れ弾的な被害を受けないように、それなりの距離を置いているぞ!


 状況的にはワイバーンたちの方が押しているようだ。その証拠にそちらが七体なのに対してあちらは五体しかいない。

 力こそパワー!を地で行き、強力無比な攻撃力を誇るレッサードラゴンも、速度重視でヒットアンドアウェイを繰り返すワイバーンには分が悪いようだ。


 何より空を飛べるか否かが大きい。レッサードラゴンの攻撃手段は鉤爪による引き裂きに始まり、強靭な顎と鋭い牙を用いた噛みつき、固い鱗で覆われているのに動きはしなやかな尻尾による叩き付けと、接近戦に特化しているのだ。一応ブレス攻撃もできるようなのだが、奥の手の切り札といった位置づけだ。

 要は空を飛んで離れてしまえば、攻撃できないということになるのだ。


 一方のワイバーンはそれを理解しているのか、視界の外に回り込んで急襲しては一撃離脱を繰り返していた。

 ちなみに攻撃手段そのものは牙に鉤爪と似通っているが、空を飛ぶためなのか一撃ごとの威力ははるかに低い。それでも蓄積していけばダメージは大きくなるものだ。


「うおっ!やりやがった……!」


 度重なる攻撃の末に先頭のレッサードラゴンの背中は大きくえぐられたのだった。

 だが、そのまま一方的とはならなかった。そこで油断したのか飛び上がるのが遅れたその個体に別のレッサードラゴンが飛び掛かり地上へと引きずり下ろしてしまう。こうなってしまえば力で劣るワイバーンに成す術はない。あっという間に集られて断末魔の悲鳴を上げることになるのだった。


 下位(レッサー)とはいえやつらもまたドラゴンの名を冠しているだけはあるということか。

 これで残るは六対五。この調子でいけば勝敗は分からなくなってきたぞ。


 それでもこのまま相打ちを期待するのは、さすがに楽観が過ぎるというものだろうな。どうやら俺も参戦して、そうなるように仕向ける必要がありそうだ。


「ぐぬぬ……。せめて動画を撮影できておけば……!」


 戻ってから探索者ギルドに高値で売りつけてやれたかもしれないのに!

 カメラを始め撮影できるような道具は何一つ持ってきていなかった。やっぱりアイテムを取りに引き返すべきだったかと考えてももはや後の祭りというやつである。


 まあ、そもそも無事に帰ることができるかどうかすらも怪しいところなのだけれど。

 前にも述べたがレッサードラゴンの全長は十メートルを超える。ワイバーンはそれよりも小さいとはいえ、翼を含めればその幅は八メールにも及ぶ。そんな巨大怪獣どもが争っている中に飛び込もうというのだから、無事に生きて帰ることができる保証など一切どこにもないのだ。


 もしも『死に戻り』というダンジョンのシステムがなければ、俺も突撃しようなどとは絶対に考えなかったと思う。

 いや、決してダンジョン内での死が怖くないという訳ではないで勘違いはしないように。今だって膝が震えてガクガクしているくらいだからな!


「まずはワイバーンの制空権を崩すところからかな……」


 こちとら異世界出身なだけで地面の上を歩くしかできない単なる人間様だ。上方向なんて基本的に死角でしかない。そんな認識できない場所をぶんぶん飛び回るやつがいるなんて危険以外の何物でもないぜ。

 幸運にもワイバーンの翼は皮膜でできている。胴体部のように鱗で覆われていないので俺のスリングショットでも切り裂くことができるはず。欲を言うなら六体全部を落としたいところだが、一射した時点で気付かれるだろうし、最高に近い調子で上手くいっても四体、三体落とすことができれば上出来の部類だと思う。


「あとは落ちてきたワイバーンに意識が向いている間にレッサードラゴンに接近して、痛撃を与えて逃げ出すように仕向ければミッションクリアだな!……いや、難易度バグってるし。やっぱクソゲーだわ、これ」


 レッサードラゴンの鱗はワイバーンのそれとは比較にならない堅牢さを誇っている。運よく俺が拾って帰ったもので実験してみたところ、ワイバーンの鱗はランク三の鉱石から作り上げたハンマーでも破壊することができたが、レッサードラゴンの方はひび一つ入らなかったそうだ。

 その後、ココクイロカネを練り込んだ武器でようやく割ることができたのだという。


 そんなレッサードラゴンが逃げ出したくなるような痛撃を与える?はっきり言って無茶振りにもほどがあるという話なのだ。


 どこかにドラゴン特効の武器とか落ちていないだろうか?

 割と本気で辺りを見回してしまう俺だった。


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