15 ダンジョンの不思議機能
ダンジョンの厳しさや危険さについては一旦置いておくとする。特に俺の場合はダンジョンに行かないという選択肢はないからね……。探索者界隈にしか需要がないとはいえ、イツイロカネがレアアイテムであることに変わりはないのだ。
どこの国のダンジョンでもいいから、早く八十階まで到達できる人が現れて欲しいものだよ。
「あ、『異次元アイテム倉庫』開けます」
「おう。いいぞ」
一言ギルマスに断ってから出張スペースの奥にある壁の一角へと向かう。一見すると駅などに置かれているコインロッカーのようだが、これこそ一階にあるダンジョンの重要設備の一つ『異次元アイテム倉庫』である。
要はゲームでよくあるアイテム預かり所だな。ダンジョンの設備のため他人のアイテムが出てくることはないのだが、初期の頃には取り出した瞬間を狙って強奪するというケースが多発したため、ヒノモト国では探索者ギルドが管理するようになったらしい。
探索者が多いトキーオダンジョンなどでは、時間帯によっては異次元アイテム倉庫利用のための長い列ができることもあるのだとか。
ちなみに、服や鎧は一瞬で自動装着してくれる優れものである。ダンジョン産の防具はサイズが自動調節されるので可能なある意味裏技だな。
そしてどんなにハイスペックな機材で撮影しても着替える瞬間を撮影することはできなかったそうだ。これは安全性を立証するために探索者ギルド――つまり国、政府だな――が主導して行った事件なので間違いはないとのことだった。
ついでに装備品についてももう少し説明しておこう。
サイズの自動調節など便利な機能が付いているダンジョン関連の装備だが、異次元アイテム倉庫に預けられたり探索者同士で交換したり、探索者ギルドの出張スペースで買い取ってもらったりとほとんど外に出回ることはない。
なぜなら、ダンジョンの外では探索者のパワーアップした能力が制限されてしまうのと同じで、装備品もまた著しく弱く脆くなってしまうためだ。
例えば、ココクイロカネを合成して現状では最強に近い硬度を誇る武器ですら、外では地面に叩きつけるだけであっさりと折れてしまう。一応修復できなくはないらしいが、金と時間と労力を使って作り上げた逸品がすぐに壊れてしまうとなれば、わざわざ持ち出す意味などないわな。
イツイロカネがダンジョン攻略専用アイテムだと言われている所以もここにある。
自動装着された防具を見回しておかしなところがないかを確かめる。俺の装備は胸や喉周りだけを金属で覆った動きやすさ重視のものとなっている。レッサードラゴンとかワイバーン相手にはどんな重装備でも意味がないと思い知らされましたので……。
世界最高クラスの強さの人たちならばともかく、俺では立ち向かうだけ命の無駄、いやアイテムの無駄になってしまうだけなのだ。
続けて武器。メインウェポンはY字型のスリングショットだ。≪斬裂の申し子≫を活かすために発射するのは石ころではなく手裏剣やチャクラムを模したお手製の物だけどな。
より遠距離からより強力な攻撃ができるようにと銃やボウガンを模した物も製作してみたのだけれど、最近はもっぱらこちらを使うことが多くなっていた。
それというのもサイズの違いも含めて臨機応変に射出するものを選べるからだ。加えて大きくカーブさせる曲撃ちもできるときているのだから、スキルってすごいよね……。
そして一方のサブウェポンだが、結局少し湾曲した片刃の剣となっていた。とはいえ日本刀――なぜか同じ呼び方だった――ではなく、六十センチくらいと刀身は短めな上に肉厚で幅広と、海賊が振り回すカットラスを思い浮かべてもらえれば当たらずしも遠からずといった感じだ。
これには師事した相手や選択した流派が大きくかかわってくるのだが……、それはまた後程語ることにする。
一通り見まわして異常がないことを確認する。
点検大事!準備ヨシ!
「こうして見ると、ショーマもすっかりいっぱしの探索者だな」
「まあ、ダンジョンに潜るようになってかれこれ一年になりますから」
シコクダンジョンは下っていくタイプの構造?形式?なので「ダンジョンに潜る」という言い方をすることが多い。逆に登っていくタイプは「ダンジョンに入る」または「ダンジョンに行く」と言うぞ。
もっとも外の景色が見えたことはないので、単に次の階に移動するための階段が上に向かっているか下に向かっているのかの違いでしかないのだけれど。まさにどうでもいい小ネタである。
「そうか、あれからもう一年も経っているんだな……」
そう言うと遠い目をするギルマス。
まあ、ね。異世界からの転移に八十階からの帰還を始め、その後も色々とあったからね。俺としてはその節はお世話になりましたとしか言い様がないのだよなあ。
特に何か不正をしたのではないかと疑われて、メリッカーからトップクラスの世界ランカーたちの人たちが押し寄せてきたのには本当に肝が冷えた。
「最終的にはショーマが異世界出身だと理解してくれたし、イツイロカネのいい取引相手になってくれたし、書いてくれたサインがいい客寄せになったしで冒険者ギルドとしては万事丸く収まることにはなったんだが……」
あの剣幕は心底恐ろしかった。色々な武勇伝を持っていそうなギルマスやレイヤさんでも即座に勝てないと判断していたくらいだ。
まあ、根っこの部分は善良で情に厚い人たちだったようで、公表していることが真実だと理解できた途端に謝ってくれたし、俺の境遇にも同情してくれていた。
そうそう、言い忘れていたが異次元アイテム倉庫に預けた物は、なんと別のダンジョンでも受け取ることができてしまうのだ。だからメリッカーのダンジョンを活動拠点にしている彼らにも有益だったという訳。
ヒノモト国的にはイツイロカネ及びその精錬品の性能実験と宣伝を兼ねた取引だったみたいだけどな。
ところでこの異次元アイテム倉庫の機能に対して、一時はダンジョンを経由しての密輸入が増大するのではと危険視されたこともあったらしい。
が、そもそも異次元アイテム倉庫に預けることができるのはダンジョン産のアイテムに限られるので、うまみがないので実際にやる者はまずいないため放置されることになったという話だ。
そしてトップランカーたちからもらったサインだが、探索者ギルド出張スペースの上に額縁に入れて飾られており、ありがたがって拝む探索者もいるそうな。
……いや、神棚じゃないんだからご利益はないでしょ?




