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14 ダンジョン一階にて

 武家屋敷風の門を潜ると景色は一変する。床や壁が石っぽい謎材質でできた巨大な空間になったのだ。ダンジョン一階に到着である。一辺がおよそ百メートルの正方形で、高さの方は五メートルくらいはあるか。光源の在り処が分からないのに過不足なく見えるだけの明るさがあるという訳分らん場所だったりする。

 ゲートから見て手前右側の隅に探索者カード作成機と異次元アイテム倉庫、さらにそれらを管理している探索者ギルドの出張所がある。そして反対の左側手前の隅に地下二階への階段があり、中央には五階区切りで到達した階層までの転移が行える『転移石』――サイズ的には岩――が置かれている。


 対して奥側右手には最高到達階やレアアイテム発見が表示されるライブビューイング並みの大きさを誇るインフォメーションボードがあり、反対の左側は炉が並ぶ簡易クリエイト設備が置かれている。まあ、俺には≪作業場≫があるので利用したことはないけれど。


 なお、探索者ギルドの出張所以外は全てダンジョンが生み出した設備なので、持ち出すどころか壊したり持ち上げたりすることさえ不可能らしい。


 ちなみに世界各地に存在しているダンジョンだが、一階だけでなく三階までは全世界共通の作りになっているのだそうだ。二階は大部屋階で三階は迷路階と、いわゆるチュートリアル的なものになっているとのこと。妙なところで新設設計だな。


「お、ショーマか」


 その出張所スペースから声をかけてきたのはギルマスだった。今日も今日とて山賊頭な風貌である。あんなでもここシコクダンジョン探索者ギルドの最高責任者なので、本来ならば外にある探索者ギルドの『シコク迷宮村支部』にいるべきだと思うのだけど。

 まあ、探索者には荒くれ者なヒャッハー予備軍やどこからどう見ても反社なその筋の連中もいたりするから、強面で実力もある彼のような人が睨みを利かしておく必要があるのかもしれない。海外ではマフィアとかが占拠して独占しているダンジョンも普通にあるみたいだし。


「おはようございます」

「おう、おはよう。今日は下か?」

「うっす。八十二階の採掘ポイントを一通り回ってきます」

「上の連中が無理を言ってすまんなあ」

「まあ、その分便宜を図ってもらってますから」


 本日のメインのお仕事は地下八十階以降で採掘をして、ランク四鉱石を持ち帰ってくることだった。そしてその依頼を出しているのが、他ならぬヒノモト国政府だったりする。

 あと、さすがに割増にはならないがきちんと正規の値段で購入してくれるため、こちらの世界での俺の個人資産はとんでもない金額になりつつあるんだよな……。どこからともなく信託だの投資だのといったお誘いの話がくるはずだわ。


 そのランク四鉱石だが、錬成しても手に入るのは今のところ『イツイロカネ』の一つだけだ。

 が、これは特殊な媒介と一緒に更なる錬成を行うことで五つの鉱物系アイテムへと変化することが判明している。


 武器や防具に火属性を付与することができる『ヒセキイロカネ』。

 武器や防具に水属性を付与することができる『ミセイイロカネ』。

 武器や防具に土属性を付与することができる『ツオウイロカネ』。

 武器や防具に風属性を付与することができる『カハクイロカネ』。

 そして、武器や防具の性能を著しく高めることができる『ココクイロカネ』。


 とてもとてもパチモン感が漂う名前なのは気にしてはいけない。いいね。

 それはさておき、属性付与はこれまでスキル等で一時的に付与することしかできなかった。ところがこれらを用いれば恒久的に属性を付与した武具を作ることができるとあって、国内外から問い合わせが殺到しているという話だ。


 ただし、合成できる対象と合成できる場所がダンジョンに限られているいる。そのため基本的にはダンジョン攻略にしか役立たないとされ、騒ぎの範囲は探索者界隈の限定的なものにとどまることになる。

 俺が『不幸の事故により異世界から転移してきた悲劇の青年』だと公表して人々の同情を誘ったことも一因となっているが、ガチガチの護衛に固められることなくのほほんと暮らせているのもこのためだろう。


「八十二階なあ……。景色はいいんだが……」

「そうなんですよね。景色は、いいんですよね……」


 ギルマスの言葉にしみじみと同意する俺である。

 ヒノモト国では広く情報を共有するために最新階に向かう探索者には動画の撮影が求められる。一応はお願いという形なのだが、機材は探索者ギルド持ちだし報酬も出るので断る人はほとんどいないのだとか。

 当然俺も引き受けており、結果シコクダンジョン八十二階の様子は広く世間に知られているのだった。


 その八十二階だが、大部屋タイプの階であり、遠くに火山を仰ぎ見る山裾(やますそ)といった感じの地形だ。森あり草原あり荒れ地あり、ついでに温泉もありと起伏と変化に富んだ場所となっている。ちなみに、火山そのものには辿り着けない。

 先にも挙げた鉱石の採掘ポイントだけでなく、薬草などの採取ポイントも豊富となかなかに好物件な階だと言える。


 が、しかし。出現するモンスターが問題だった。さすがは前人未到――俺は入り浸っているけど――の階だと言うべきか、巣くっているのはレッサードラゴンとワイバーンなのである。


 レッサードラゴンは地を這うことしかできないオオトカゲといった風貌なのだが、十メートルを超す巨体が凶悪だ。大きさに比例してタフネスも半端ではなく、ギルマスですら「最低でも俺と同レベル帯の人間が十人は必要」だと言っていたほどだ。

 ワイバーンも前足が翼と一体化している分ドラゴンよりは格下だという扱いをされるが、その機動力は脅威の一言に尽きる。空中からの奇襲を食らった時には死を覚悟するどころか、実際に死に戻らされたくらいだ。


 おっと、大事なことを説明し忘れていた。実はダンジョンでは致命傷を受けても死ぬことはなく、一階に強制帰還させられることとなる。もちろんペナルティもある。

 まず、装備品と取得アイテムの全てをはく奪されてしまう。つまりその日の稼ぎはおろか高値で購入した武器も精魂込めて作り上げた防具も全てが水の泡のように儚くなくなってしまうのだ。


 しかしそれよりも深刻な問題なのが、「死んだまたは殺された時の記憶が残る」ことだ。俺がワイバーンに殺された時のように訳が分からない状態なのはとてもラッキーな部類で、大抵は死ぬ瞬間にまざまざと直面して記憶することとなる。

 酷いものになるとモンスターに生きたまま食われたり溶かされたり、ゴブリンやオークの集団に嬲り者にされることだってあるそうだ。それが原因で精神を病んだ人も少なくはないらしい。


 探索者が引退する一番の理由となっているのも頷ける話だ。

 悠々自適かつ夢とロマンに溢れていると思われがちな探索者だが、現実はそれ相応に非情なのだですよ……。


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