12 タレントとスキルのシナジー
「残るはスキルなんだが……」
と言うギルマスはその声同様に疲れ果てた表情をしていた。あー、うん。その、俺のタレントが色々と心労をおかけして申し訳ないっす。
「ええと、<射手>に<武器防具作成>ね」
「ほう。一つ目はともかく二つ目は狙ったかのようにおあつらえ向きのスキルだな」
<射手>は弓や銃といった道具を用いての遠距離攻撃に関するもので、<武器防具作成>は読んで字のごとく武器もしくは防具を作ることに秀でたものとなるそうだ。
「作業場もあるし八十階でレアな鉱石も入手できるとなると、渡來君が武具の鍛冶職人として有名になる日もそう遠くないかもしれないわねえ」
「鉱石採掘には相応の危険も伴うだろうがな」
あ、それでもやっぱり八十階への弾丸ソロツアーは継続の方向ですかそうですか。
そういう意味では遠距離攻撃ができるようになる<射手>が俺としては嬉しかったりする。グラディウスを掴んで左眼潰しと向かい合った時の絶望感はトラウマものだったからな……。接近戦とか恐ろしすぎてマジ無理やで……。
「そして<射手>だが……。攻撃系のスキルだが≪斬裂の申し子≫と噛み合わないのが惜しいな」
「え?手裏剣とかチャクラムとかはダメなんですか?」
棒手裏剣の場合は刺突武器扱いされそうだけど、十字手裏剣とかなら斬裂武器として定義されてもおかしくないと思う。円盤状のチャクラムは言わずもがなだな。
「残念だけど、直接投げるものは全て<投擲>スキルの管轄なのよ」
「なんですと!?」
<射手>スキルはあくまでも射出用の道具を使った場合に限定されるらしい。
「世界各地で実験もされていて、同じ石でも直接手で持って投げる時には<投擲>が、投石器を用いた時には<射手>が適用されることが判明している」
「……それじゃあ、スリングショットで手裏剣みたいなものを飛ばすのは有り?」
「有り、な気がするわね。もちろん試してみないことには正確なことは分からないけど」
そんな訳で実験の結果次第ではあるが俺の戦闘での主な立ち回りは、スリングショットによる中距離から遠距離攻撃ということになったのだった。やったぜ!
「あとはサブウェポンをどうするかだな」
「そうねえ。せっかく≪斬裂の申し子≫なんていうタレントを持っているのだから、取り回しのしやすい刀剣類あたりが妥当じゃないかしら?」
「え?」
「何を驚いているんだ。常に確殺できるとは限らないんだし、倒しきれなかった時のために接近戦の訓練は必至だぞ」
「そ、その時は逃げてしまえば――」
「逃げた先に別のモンスターが居るなんて、ダンジョンではよくあることよ」
仮にその場を切り抜けられても、モンスターをトレイントレインで栄光どころか破滅に向かってひた走ることになる、と……。
「特に渡來君は一人で八十階に向かう必要がある。基本は戦わない方針でいくとしても、戦えないのでは話にならんぞ」
将来的にはオネエさんが言ったように≪作業場≫と<武器防具作成>で有名鍛冶師としてなり上がることもできるかもしれない。が、現状俺の一番の価値は前人未到のダンジョン八十階に出入りできるということだ。
それを投げ捨てるとなると、最悪ヒノモト国上層部から「使えねーやつ」認定されてサクッ!と暗殺される可能性すらある。結局、選択肢なんてないも同然なのだった。
「まあ、ああは言ったがサブウェポンについては急いで決める必要もないだろう。色々と触ってみて手に馴染むものを見つけるのもいいんじゃないか」
「そうね。ことと次第によれば、これも国への要望とするべきでしょうし」
ただし、できることならマイナー武器は避けた方が無難ということだった。
「どうしてっすか?」
「メジャーな武器なら『流派』の選択肢が増えるからよ」
「流派?」
またもや聞き馴染みのない言葉が出てきたぞ?
「極論を言うと、流派っていうのは『闘技』や『魔術』を習得するために学ぶ、体系的なもんだな」
なんとこの世界では、タレントやスキルを持っているからといって自動的にアーツやマジックを使用できるようになる訳ではないのらしい。そしてそれらを所持している人は少数派でしかない。むしろそれらの存在が明るみに出たのはダンジョンが出現してからのことなんだよな。
その一方で以前から人々はそれぞれの流派に沿って学び修練することによって、最終的にはアーツやマジックを自在に操れるようになっていたのだという。
「剣術で例えてみましょうか。同じ上段からの振り下ろしでも一撃必殺を旨とする流派と連撃に重きを置く流派では、基本的な動きにもそしてアーツにも違いが出てくるものなのよ」
ちなみに前者だと【轟雷】、後者だと【初太刀】なるアーツを習得できるそうだ。
「魔法にも様々な流派があるんですか?」
「マジックは高度になればなるほど範囲が広くなる傾向がある。そのため基本的にはそれぞれの国が一元的に管理しているな」
「ヒノモト国の場合だと、一般人が学べるのは『陰陽術』よ。単独でも使用できるんだけど、符を媒介にして強化することもできるの」
やばいな。魔法を強化できるなんて、想像しただけでオラちょっとワクワクしてきたぞ!
「個人での符の作成は禁止されていて全て国が管理している。ダンジョンが発生してから符を購入する探索者が増えたとかで、いい収入源になっているそうだ」
おっふ……。それを聞いてめっちゃ冷めてきましたわ。強化された広範囲のマジックがバカスカ使われたら危険どころの騒ぎじゃないだろうから、当然の処置だったのだろうけど。
「まあ、あなたの場合はそもそも魔法が使えるようになるところからでしょうね」
オネエさんが魔法を使ったのだろう。ふわりとそよ風が俺の頬を撫でていった。はてさて異世界人の、しかも魔法なんてものが存在しなかった世界出身の俺に仕えるようになるものなのかねえ?
「魔法が使えるようになるコツとかないんですか?」
「ないわ」
「ねえなあ」
……即答っすか。
「感覚的というか直感的というか、とにかくそういう部分が多いの」
「早いやつだと物心ついた時から使えるし、遅いやつもいつの間にかできるようになってるものだな」
元の世界での自転車に乗れるようになる感覚に通じるものがあるのかもしれない。いや、誰かから教わることはほとんどないという話だから、言葉を操れるようになることの方が似通っているかな。
一輪車?あれこそ才能か努力、もしくは情熱がないと無理。




