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11 チートだが最強ではない

「次は技能(スキル)ね……、ってワオ!すごいわ!才能(タレント)が三つもあるじゃない!?」

「≪斬裂の申し子≫に≪賢者の耳目≫、それに≪作業場≫か。データベースに該当するものは……、ないな」

「え?それじゃあ、どんなものか分からない?」

「いや、似たものならいくつかあるぞ。≪剣の申し子≫に≪弓の申し子≫とかだな。分かりやすく言うと剣や弓を上手く扱える才能だな」

「だとすると、≪斬裂の申し子≫は斬ることがメインの武器全般を扱う才能、ということっすか?」

「多分それで正解ね。異世界人だからなのかしら?とんでもないぶっ壊れ性能よ」


 これまでに発見されたものの大半はある特定の武器一つに対してのみ効果があるというもので、≪剣の申し子≫のようにとある武器種全般に効果があるものですら破格の性能とみなされていたようだ。

 俺の場合はその範囲がはるかに広い訳で、ぶっ壊れと言われるのも納得だ。


 とはいえ、これがあればチートで最強!ということでもない。俺の脳裏に映し出されていたのは、左眼潰しに対抗しようとグラディウスを拾った時のことだった。グラディウスを手にした瞬間、やつとの力量に絶望的なまでの差があることを理解させられてしまった。

 一流の武芸者は戦わずとも相手の強さが分かるという。俺自身はドが付くほどの素人だが、斬裂の申し子によって強制的にその域にまで引き上げられていた可能性は十分にあるだろう。


「≪賢者の耳目≫だが、文字的に感知系だと思うんだが、どうだ?」

「ただの感知ならわざわざ賢者なんてつける必要はないんじゃないかしら?」

「あ、それは多分鑑定みたいなやつだと思います。視界の隅に時々『薬草』とか『採掘ポイント』とか、『スケルトングラディエーター』とか、文字や文章が浮かび上がっていたことがあるんで」


 密かに危ない妄想とかじゃなくて良かったと安堵する俺だった。その一方でギルマスたちはまたもや唸り声を発していた。


「対象を解説付きで説明してくれる?一見地味だけど、これもとんでもない性能よ」

「使い方次第では罠を見破ることなんかもできそうだぞ……」


 なんでもいわゆる鑑定的な能力はタレントにもスキルにも存在していなかったのだそうだ。

 あれ?俺ってもしかしなくてもかなりのチート野郎なのでは?もっとも、それだけで無双ができる俺tueeee!にはならないみたいだけど。

 才能があってもそれを適切に使用できるだけの知識や経験や判断力やその他もろもろが必要になってくるのは、異世界でも変わらないようで。


「残るは≪作業場≫だが……。どんなものか全く想像がつかんな。渡來君、心当たりはないか?」


 ギルマスたちが分からないものが俺に分かるはずもなく、首を横に振るしかない。


「ふうむ……。タレントやスキルってのは自然と発現というか使いこなしていることがほとんどなんだがなあ」


 例えば怪力だと思われていた人が実は≪筋力加算≫のタレント持ちだったり、火魔法だけが突出している人に≪火属性の知識≫が備わっていたりといった具合らしい。

 加えて、例に挙げた二つや先の剣や弓の申し子のように名称から効果を簡単に類推できるものばかりだったようだ。


「うーん……。あ!≪賢者の耳目≫を使えば何か分かるかもしれないっす」

「その手があったわね」

「ついでにそっちのタレントの実証実験にもなるか。よし、試してみてくれ」


 さて、どうなるかな?カードに記された≪作業場≫の文字に集中してみると……。


『作業場。クリエイトに必要な道具一式が揃った空間を作り出す特殊タレント』


 え?これ空間を作り出すとか、チートどころの騒ぎじゃない相当やばい能力じゃないか、これ?

 二人にも伝えると、やっぱりというか案の定絶句していた。


「さっきも言ったようにデータベースには存在していない新規のタレントだ。検証してみないことには詳しいことは分からん」

「とりあえず使ってみろってことね」

「身も蓋もない言い方をするとそうなる。……渡來君、やり方は分かるか?」

「あ、大丈夫みたいっす」


 ≪賢者の耳目≫を使ったことがきっかけとなったのか、それとも認識したことがトリガーになったのかは不明だが、いつの間にか作り方は頭の中に入っていた。


「……ふう。いきます。≪作業場≫!」


 用心のために何もない場所に移動してタレント発動!

 ゆらりと目の前の景色が揺らいだかと思えば、様々な道具が所狭しと並べられた棚や俺が元の世界で使用していたベッドくらいの大きな机、それに炉などの設備が現れていた。

 全部の広さは四から五メートル四方といったところだろうか。


「……すごいわね。そっち方面の知識はないから確かなことは言えないけど、これだけの道具が揃っていればなんだって作れちゃいそうよ」


 そう言ってオネエさんが感心するくらい圧巻の光景だった。


「どこにでも専門の設備を呼び出せるとなりゃあ、貸し出すだけで金が取れるぞ……」


 というギルマスの目論見は、この一分後に儚く崩れ去ることになる。それというのも俺以外の人には中に入ることができなかったからだ。それなら逆に緊急避難場所として使えるのではないかとも考えられたのだが、オネエさんの鉄拳一発で消滅してしまい、強度不足が露見することになるのだった。

 ついでに言っておくと、疑似アイテムボックスのように使用することもできなかった。破壊した時でも任意で消去した時でも、置いていた百円硬貨(コイン)はその場に残されたままになっていた。


「まあ、一緒に消えなかっただけでもマシってことよね」

「あくまでも作業場は作業場、ということだな」


 ちょっと残念だけど、持ち主の俺が使いこなせるようになれば色々な物を作ることができるようになる訳で、チート級な性能に違いはないということで落ち着くのだった。


「やだ、それで納得するとか私たちも大概渡來君に毒されてきたわねえ」

「あの……、人を諸悪の根源みたいに言うのはやめてくれませんか」

「我々にとってはそれくらいとんでもないことだったんだよ。ただまあ、君の安全を確保するには役立ちそうではあるが。これだけのレアタレント持ちだ。相手がどれだけ偉くともそう簡単に切り捨てることはできないだろうからな」


 とギルマスはフォローしてくれたけど、ある程度の習熟は前提になってくるんじゃないかな。場合によっては作業場で作ったものを賄賂(わいろ)、もとい贈り物にすることも考える必要がありそうだ。


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