1 目覚めても 美形はいない ああ無常
新作です。
例のキャラメイクを行った彼が主人公となります。
よろしくお願いします。
目が眩むほどのまばゆい光がようやく収まったかと思えば、そこは薄暗い空間だった。
そして目の前に立つ人物を見て思う。
召喚主は美少女王女様もしくは美形王子様なのが最低条件だろうが!……と。
腹黒な陰謀系ではない、素直な清純系であればなお良しだな。
現実は残酷だ。俺の前に立っていたのは骨と皮だけのアンデッドと見間違えそうなジジイだったのだから。見えていたのは顔と杖を持つ右手くらいだったけど。あと、耳が長かった
もちろんこんな非常事態だ。心の中で思うだけで口に出したりはしない。まあ、口を開くことができなかったというのが本当のところではあるのだが。
何せこのジジイ、やたらめったら眼力が強いのだ。それこそ頭の中まで覗かれているような気分になってしまい、背中には冷や汗がだらだら流れていたね。
そんな不気味ジジイから無遠慮な視線を向けられ続けること数分、実際はほんの十数秒といったところだったのかもしれないが、体感的にはそれくらいはジロジロギョロギョロと品定めされていた。
そう、品定めだったのだ。そのことがはっきり分かるやつの台詞がこちら。
「……失敗だな。それに置いておく価値もない」
それだけ言うとジジイは興味を失ったかのように踵を返してしまった。
正直に言ってイラっとするどころかブチギレそうになったのだが、ここは見ず知らずの場所だ。少なくとも岩盤をくり抜いたような空間がある場所に心当たりなどない。
そして非常に残念なことながら、情報源となりそうなのはジジイだけだった。
心の中で「クールだ、クールになるんだ」と自分に言い聞かせながらジジイのいる方へ足を動かす。ちなみに、カッコイイという意味の方ではないぞ。まあ、俺がカッコイイのは間違いないけどな!
……という訳で、安楽椅子に深々と腰かけて天を仰ぐように背もたれに身体を預けているジジイ向かってクールに声をかける俺。
「あのー、大変失礼いたしますが質問させてもらってもよろしいでしょうか?」
十秒経過。
……ほほう、無視するとは言い度胸じゃないか。
「すみません、わたしの声が聞こえていますか?出来ましたら返事をしていただきたいのですが?」
二十秒経過。
……またもや無視。陰湿いじめ野郎かこいつは。
そちらがそういうつもりなら、こちらにも考えがあるぞ。
「こーんに――」
「やかましい。消し炭にされたくなければさっさと消え失せろ」
軽く咳払いをして喉の調子を確かめると、いざ爽やかな挨拶を始めようとしたところで空中に火の玉を浮かべたジジイに遮られてしまう。
「し、失礼しましたー!」
それを見た瞬間、俺は脱兎のごとく逃げ出していた。ジジイは間違いなくマジだった。本気で俺を殺すつもりだった。その証拠に、やつの頭上に浮かんだ火の玉からは尋常ではない熱さが感じられた。
どういう原理なのかはさっぱりだが、もしも少しでも行動が遅れていれば、言葉通り消し炭にされていただろう。命の危機を感じ取った俺の本能、グッジョブ!
……元気よく爽やかな挨拶は好みではなかったのか。小学生時代ご近所のご年配の皆様には好評だったのだがなあ。
しばらく走った所で背後に誰もいないことを確認して、ようやっと安心することができた。
その途端急に体が重く感じてしまい、荒い息を吐きながら背中を冷たい石壁に押し付ける。本当は床に寝転がってしまいたかったのだが、そうすると起きられなくなってしまいそうだ。
ひ弱だと?……ふん!インドア派の体力のなさを舐めるなよ。俺は百メートルを全力疾走しただけでぶっ倒れる自信があるぜ!
「はあ、はあ。それに、しても……。ここは一体、どこ、なんだ?」
状況を整理するためにも、あえて口に出してみる。簡単なことだが、意外に自分を客観視できるのでお勧めの方法だ。周囲に誰か他人がいると独り言の多いやつだと思われる危険性はあるけど。
周りを見回すと相変わらず石をくり抜いたような奇妙な場所だ。ジジイが居た場所との違いは部屋のような開けているか、通路のように前後に伸びているのかという程度でしかない。あと、走るのに困らないくらいには仄かに明るい。
落ち着いて振り返って見れば、少し離れた場所に曲がり角のようなものが見えるばかりだった。印をつけていた訳ではないので、仮にジジイの部屋に戻ろうとしても不可能だろう。それ以前に逃げるのに必死でどこをどう走ったのかも分からないし。
つまり、今の俺は……、
「ザ・迷子!!」
なのだった。
迷子になった時の鉄則として、その場から動かないというものがあるが、これが有効なのは同行者がいる場合や探してくれる相手がいる場合とあなる。
現状、ここでの俺の知り合いと言えばさっきのジジイだけだが、いきなり切れて殺そうとしたくらいだからやつが俺を探すことはないだろう。もしもその可能性があるとすれば、何らかの事情で確実に俺の息の根を止める必要ができた時だろうから、ぜひとも探さないでくださいお願いします。
「とにかく、ジジイから離れる方に進むことにするか」
疲れ切って鉛のようになった体を鞭打ち、よろよろと覚束ない足取りで前だと思える方へと歩いていく。そして中途半端に余裕ができたせいか、このいきなりで訳の分からない状況について考えてしまう。
記憶の方は曖昧だ。確か……、今日は新学期のクラスチェンジ、ではなくクラス替えで新しいクラスメイトになった連中の内、意気投合したメンバーで集まって街に繰り出したんだよな。その中にはちょっと気になる女の子もいたりして、これから俺の甘酸っぱい青春ヒストリーが開幕するはずだった。
ところがどうだ。気が付けば目の前にいたのはアンデッドジジイ――実は本当にアンデッドだったのでは?――で、しかも殺されかけるというメチャクチャな展開だ。
「ちくしょう。なんで俺がこんな目に……」
張り詰めていた気持ちが切れてしまったのか、視界が滲んでしまう。
分かってる!泣いている場合じゃないのは百も承知だ。これだけ意味も訳も分からないのだ。パニック映画の最序盤のモブよろしく、あっさりと死んでしまう可能性だって十分にあり得そうだ。
ぐいっと袖で強引に流れてくる涙を拭う。
ああ、くそう!目から出た汗がしょっぺえなあ!!
ストックがなくなるまでは、月曜~金曜の週五回投稿します。
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