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第8話 ルナのお願い

 俺が目を覚ますと、辺りは明るくなっていた。

 ファンタジーな夢を見ていたような気がするが、思い出せない。

 

 うーん、なんかとても大事なことだったような……まぁ、所詮は夢だ。別に大したことないだろう……。



「おはようございます」

「ああ、おはよう……」

「寝言でルナの名前を呼んでました。何か思い出したのですか?」

「え!? そうなの? うーん、でも言われてみたら、お前の夢を見ていたような気がする」


「思い出して欲しいのです! とても大事なことなのです!」

「おいおい、朝からそんなに力むなよ。内容は全然覚えてないから」



 確かにあいつと一緒にいる夢だったけど、昨日突然現れて、色々あったから、別にそんな夢を見ても不思議なことでもない。



「別にいいだろ? 夢の話なんて……てか、まだ腕を掴むのか」

「んんー、夢じゃないかもしれないのです。だから、思い出して欲しいのです」

「もう完全に忘れたわ。それより、お前の腕についているやつ、何か赤色に光っているぞ」



 昨日は確か、オレンジ色に光っていたやつだ。



「あっ……」

「ん? どうしたんだ?」

「……」


 急に黙り込んだぞ。一体どうしたんだ?



「おーい! 聞いているか? それは何かのお知らせか?」

「……」



 すると、今まで俺の腕を掴んでいたけど、何故かゆっくりと放した。

 あいつが自分から放すのは、初めてだ。



「どうした? 具合でも悪くなったのか?」

「だ、大丈夫です」

「そうか……」

「あの……ルナのお願いを聞いてもらってもいいですか?」

「お願い? 何だ?」


「ルナをここに……住まわせて下さい!」

「えーー!!」



 突然、頭を下げてとんでもない事を言ってきたぞ。



「それって、ここで同居するってことだよな?」

「はい、お願いします!」



 いきなり同居と言われても、昨日会ったばかりだし、出会い方も普通では無かった。しかも、妄言ばかりで素性がよく分からない。


 いくら美少女でも、いきなり同居は流石に無理がある。

 彼女には悪いが断らせてもらう……。

 でも、そう考えると何故か胸が苦しくなる……。

 同情しているのか? 俺……。



「いきなり同居って、それ流石に……む、むっ、あっ、えっ」

「……」



 何故だ? 断ろうとしたら声が出ない……。

 


「同居は……あっ、うっ」

「……」



 駄目だ声が出ない。

 彼女は、俺が今から言おうとしていることが分かっているのか、目を閉じて震えている。

 そんな表情しているから、言えないのか? 



「あっ、ど、同居は、うっ、くっ」

「どうかしましたか?」

「い、いや、何でもない。あれ?」



 普通に喋れた。



「同居の件は、むっ、うっ、あっ」

「???」



 だ、駄目だ。断ろうとした時だけ声が出ない。

 それにさっきから冷や汗が止まらない……。

 まるで、身体全体で断るのを拒否しているみたいだ。



「だ、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だ。気にしないでくれ。はぁーはぁー」



 何故だが分からないが、ここで彼女を離すと一生後悔するような……何かそういう気がしてならない。俺の直感が大音量で『離すな』と言っている。


 もしかして、本当に俺はこのルナという女の子と……。



「本当に大丈夫ですか? 苦しそうに見えます」

「ふぅー、もう大丈夫だ。少し待ってくれ」

「はい」



 心配そうに俺を見つめている。でも、ルナの顔を見ていると、さっきの動揺が収まって心が落ち着いて来る。

 

 俺がルナを肯定しようと思い始めると、何故か暖かい気持ちになる。

 この先の未来を思うと、活力さえ湧いて来る。


 俺の心の中は、もう答えが出ているのかもしれない。頭の中とは別の答えが……。

 


「分かった。ここに居ていいぞ」

「え!? ルナと一緒になってくれるのですか!?」

「うん……まぁ」

「大好きです!!」

「こらー!! 飛びつくな!!」



ルナは俺に無邪気に飛びついて来た。すると、さっきまで赤色に光っていた腕時計みたいなものが、突然強い光を放った。



「うわーー! なんだこれー!?」



 俺は一瞬視界を奪われたが、すぐに回復した。そして、腕時計みたいなものは青色へ変わっていた。



「今のは何だ!?」

「はい、条件がクリア出来たのです」

「条件?」

「ここで一緒になれなかったら、ルナは元の世界に戻されてました。信じてもらえないかもしれませんが」 



 また、妄言かと思うところだが、さっきの光はこの世のものとは思えなかった。

 それに、俺の身体に起こったことや、ルナは嘘をついているとは思えない。だから、少し信じている自分がいる。



「いや、そんなこともないぞ。まぁ、完全に信じられる話ではないが」

「本当ですか!? ルナはそれでも嬉しいのです。頑張って良かったのです!」


「それで、あんなにくっついていたのか?」

「はい!」


「はっはっはー!」

「んんー、そんなに笑わないで欲しいのですっ」


「いやいや、なんかそういうところ、可愛いなーっと思っただけだよ」

「あっ! その言葉……前にも言われたのです」



 俺も、何でそんな事を口にしたんだろう? 自然に口にしていたな。



「……」

「……」


「……」

「ルナにキスして欲しいです」


「沈黙になったら、キスを要求するのやめろ」

「んんー、今とてもいい感じでした」


「言っておくけど、同居は認めたけど、そういうのは無しだからな。まずは友達からだ」

「ニヤリ」


「なんか凄い嬉しいそうにしているけど友達だからな。婚約者ところか恋人ですらないんだぞ」

「ルナが初めて告白した時、同じことを言われたのです。つまりですねー、このままルナがグイグイといけば、いずれは婚約者になれるわけなのです」


「いや、グイグイと来られても困るんだが……」

「ルナに任せて欲しいのです。ルナは頑張るのです!」



 確かに、グイグイと来られると、俺はルナの事を好きになるかもしれない。

 まぁ、それも悪くないと思う自分がいるのも事実。

 どちらにしても、とんでもないバラ色の大学生活になること間違いないだろう。




                         おわり

お読み頂き、ありがとうございます。


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