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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

BL

東京タワー

作者: 相沢ごはん

pixivにも同様の文章を投稿しております。


(ゆるふわ設定なので、細かいことは気にせずふんわり読んでいただけると助かります)

【プロローグ】


 どこでも案内するよ、と宮戸が言うので、東京タワーへ連れて行ってくれ、と言った。それなのに、

「ほら、あれが東京タワー」

 建設中のスカイツリーが見える場所へと連れて行かれ、苛立ちマックスだ。

「おい、宮戸。おまえの頭はわいてんのか」

「ん?」

「あれはスカイツリーだ」

 宮戸は、きょとんと俺を見返す。

「おまえ、本当に日本一頭のいい大学行ってんのかよ?」

「行ってるよー」

 宮戸は、あっけらかんと言い放つ。

 宮戸雪夫は、地元一の秀才で、ド田舎のショボい高校から東京の国立大学へと羽ばたいていったヒーローだ。末は博士か大臣か。本人に自覚はないが、地元の期待を一身に背負っている。

 俺は自分自身と向き合って、しっかりと熟考した末、おとなしく地元のドラッグストアに就職した。今回、上から、溜まっている有給休暇を消化しろと言われ、その休暇を利用して俺は宮戸のいる東京へ遊びに来ていた。休暇と言っても、飛石連休みたいなものなので、明日には地元に戻らねばならない。

「貴重な休暇を無駄にしやがって」

 俺が舌打ちと共に呟くと、宮戸の眉があからさまに下がってしまった。

「そんな顔すんな。こっちが悪いみたいじゃねーか」

 俺が言うと、宮戸はにぱっと笑う。立ち直りは早いのだ。

「せっかくここまで来たんだし、浅草寺でおみくじひこうよ」

 そんなゴキゲンなことを言われたけれど、俺は黙っていた。

 くそ。俺はノッポンに会いたかったんだ。ピンク色の、あいつに。オーバーオールの憎いやつ。

 そんな俺を見て、

「また来たらいいじゃん」

 宮戸は言った。

「またおいでよ」

 宮戸はしつこく繰り返す。

「こんどは東京タワー、いっしょに行こうよ」

 俺は、宮戸をちらりと見て、スカイツリーに視線を戻す。

 次に東京に来る時には、スカイツリーが完成してるんじゃないかと思う。それならば俺は、東京タワーじゃなくスカイツリーへ行ってみたい。そう言ったとしても、宮戸はきっと、東京タワーへと俺を連れて行くのだろう。

「ほら、ここがスカイツリーだよ」

 とか言って。宮戸は、勉強しかできないバカだから。

「まあいいわ」

 俺は諦めのため息をつく。

「宮戸。行こうか、浅草寺」

 宮戸は、うれしそうに、にぱっと笑った。



【茜色】


 新宿のでっかいホテルの前で、バスを待つ。地元から出ている高速バスは、何故か駅のバスターミナルではなくて、このホテルの前に到着する。周介くんが乗っているはずのそのバスは、大体いつも少し遅れてくる。

「宮戸、元気だったか?」

 周介くんは、おれの顔を見るなり、いつも最初にそう言う。

「うん、元気だったよ」

 おれは答える。

 高校を卒業して、おれは東京の国立大学に進学した。周介くんは地元のドラッグストアに就職した。だから、あまり会えなくなった。会えなくなってから気が付いた。周介くんがいないと寂しい。会えないのは寂しい。

 周介くんは、時々東京へ遊びに来てくれる。周介くんが勤めているのは年中無休のお店なので、休みは決まっていないし、連休を取るのも難しいらしく、大体いつも一泊くらいの滞在になる。

 夏休みや冬休みには、おれも地元に帰るようにしているけれど、やっぱり周介くんが来てくれるとうれしい。

「今回は、どこに行きたいの」

 尋ねると、

「決めてない」

 と周介くんは言った。

「行きたいとこはちょこちょこ行ったし、おまえんちでダラダラするのもたまにはいいかもしれない」

「それじゃ、なんのために来たの」

 せっかく長い時間かけて東京まで来たのに、どこへも行かないなんて周介くんらしくない。そう思っていたら、

「宮戸が元気かどうか見に来た」

 周介くんはさっぱりとした口調で言った。

「うれしい」

 思わず言ってしまった。

「そうか、そうか」

 と周介くんは笑う。きっと、周介くんは、おれの「うれしい」の意味をわかっていない。だけど、本当に、泣きそうになるくらいうれしいだなんて、とても言えない。

 ちょうどお昼だったので、お昼ごはんにラーメンを食べて、ふたりでおれの家へ直行した。

 周介くんは、さっきの言葉どおり漫画を読んだりテレビを観たり、ダラダラしていた。おれはすることがないので、来週提出のレポートをおおまかにまとめていた。後ろから覗き込んだ周介くんが、

「日本語で書けよ」

 と、ちゃちゃを入れる。

「英語じゃないと駄目なんだよ」

 と言うと、ふうん、と呟いたきり、周介くんはしばらく何も言わなかった。

「友達できたか?」

 ふいに、周介くんが言う。

「ううん」

 おれは静かに首を振る。

「彼女は?」

「できるわけないじゃん」

 そう言って笑うと、

「宮戸はかっこいいのにな」

 周介くんは言った。さらっとした口調でかっこいいと言われ、おれの全身の体温が上がった。自分自身がかっこいいかどうかなんてわからないけれど、少なくとも周介くんはおれのことをかっこいいと思ってくれているらしい。その事実こそが大事で、

「T大だし」

 と付け加えられた言葉はスルーする。そんなことは、関係ない。


 ある程度、まとめられたレポートを流し見し、このへんでいいか、と切り上げて周介くんを見ると、おれの布団で静かに眠っていた。片手に漫画を持ったままだ。読んでいる途中で落ちてしまったのだろう。

「周介くん」

 呼んでも起きない。

「周介くん」

 もう一度呼ぶ。起きない。

 規則正しく上下する周介くんの胸に、てのひらをあててみる。心音がてのひらを伝わって、おれのほうに届く。その手で頬にふれてみた。起きない。起きないのなら、と思ったのかどうかも覚えていない。だけど、おれは確かに意思を持って周介くんの唇を、自分の唇で押し潰していた。

 唇を離しても、周介くんは起きなかった。心臓がばくばく鳴って、頭がカッと熱くなる。

 もう一回くらい、できるんじゃないか。そんなことを思ってしまったおれは、再び周介くんに口づける。調子に乗って舌を差し込んだら、その舌を甘く噛まれた。慌てて顔を離す。

「起きたぞ」

 周介くんは言った。

「彼女つくれよ、宮戸」

 周介くんは表情のない顔で、淡々と言う。

「俺じゃ、代わりはしてやれない」

「代わりじゃない」

 反射的に反論していた。

「代わりじゃない。周介くんがいいんだ」

「俺がいいの?」

 周介くんが言う。

「俺じゃないと駄目?」

 確認するように尋ねる周介くんに、

「うん」

 頷いて見せると、

「じゃあ、いいよ」

 周介くんは言った。いつの間にか日が暮れていて、窓から射し込む西日で、部屋の中が真っ赤に染まっていた。

「いいの?」

 おそるおそる尋ねると、

「いいよ」

 周介くんは、やっぱりそう言った。

 夢なんじゃないかと思った。夢でもいいと思った。


 真っ赤な部屋の中、ふとんにくるまって、周介くんに夢中で口づける。

「また来てくれる?」

 尋ねると、

「おまえが元気かどうか、また見に来るよ」

 周介くんはそう言った。



【ゆげ】


 初めて周介くんが遊びに来た時、東京タワーへ行きたいと言う周介くんを、建設中のスカイツリーの見える場所へ連れて行った。東京タワーへ行ってしまったら、それで周介くんの気が済んでしまって、もう東京へ遊びに来てくれないんじゃないかと思ったからだ。腹を立てる周介くんに、「また来たらいいじゃん」とおれは言った。「またおいでよ」と、しつこく言った。だからなのかもしれない。周介くんは、何度も遊びに来てくれた。


 隣で、わしゃわしゃと乱暴に髪の毛を洗っている周介くんを見る。ぶくぶくと泡立った周介くんの頭からは、甘ったるい香りが漂ってくる。銭湯に常備されているショッキングピンクの怪しいシャンプーは、トロピカルフルーツの香りと表記されていて、やたらと泡立ちが良く香りも強い。

 うちにも一応お風呂はある。だけど、ユニットバスだし狭いので、周介くんが遊びに来た時は、いつもふたりで銭湯へ行く。

 前回、周介くんが遊びに来てくれた時、おれは眠っている周介くんによからぬことをしてしまった。だから、内心では、もう周介くんは遊びに来てくれないのではないかと思っていた。周介くんは、「また来る」と言ってくれたけど、本当にまた来てくれるとは思っていなかった。

 視線が勝手に周介くんの下半身に向くのを、理性でもって制止する。自分も髪の毛を洗おうと、シャンプーに手を伸ばす。

 身体も洗って、大きな湯船に浸かる。肩がふれるくらい近いところに、周介くんがいる。少し身体を寄せると、肩がぴとっとくっついた。周介くんの全身が少し強張ったような気がしたけれど、周介くんはそのままでいてくれた。いいのかな、と思う。周介くんは、この状況が不快じゃないのだろうか。

 おれたちの他には、おじさんがふたりとおじいさんがひとりいて、誰もおれたちを気にする様子はない。

「友達できたか?」

 周介くんの声が、ぼんやりと響いた。

「ううん」

 おれはぼんやりとした頭で、いつものように首を振る。

「彼女は?」

「いらない」

「そうですか」

 周介くんはそう言って、湯船から上がる。おれの視線は、周介くんのお尻に釘付けになる。平気なのかな、と思う。自分によからぬ思いを抱いている男の前でそんなに無防備でいて。

 そこまで考えて、ちがう、と思った。周介くんはそういうことは何も考えていないのだ。おれが、そんなふうにエロい目で周介くんを見ているなんて、きっと思いつきもしないのだろう。なんだか、言いようもない罪悪感を覚えてしまう。


「ごめんね」

 帰り道、ぽつりと言うと、

「なにが」

 周介くんはそう問い返してきた。

「なんか、こないだとか、おれ、変なことして、周介くんがいいなんて、なんか……」

 気持ち悪いこと言ってごめん。そう続けようとして、

「俺じゃなくてもいいって、代わりはいくらでもいるって、そんなふうに言われるよりは、全然いい」

 周介くんの淡々とした言葉に遮られた。

「いいの?」

 尋ねると、

「いいよ」

 周介くんは答える。本当にいいのかな、と薄ぼんやりと思う。頭の中が湯気でもわもわしているみたいに、ぼんやりしていた。

「仕事、しんどい?」

 もしかして、仕事で何かあったのかもしれない。疲れているせいで、周介くんの思考能力は低下しているのではないかと思い、確認してみる。

「しんどくなくはない」

 周介くんは言った。やっぱり疲れているのだ。だけど、

「でも、愚痴るほどしんどくはない」

 と続けられて、どっちなのかわからなくなる。

「そっか」

 おれは頷くしかできない。

 隣を見ると、生乾きの周介くんの髪の毛や火照った肌なんかが目に入り、精神衛生上よろしくない。おれは、まっすぐに前を向いて歩く。

「本当は、結構しんどい」

 周介くんがふいにそう言った。

「だから、おまえに会いに来た」

 そう言われ、言葉が出なくなった。

「俺がおまえんとこ遊びに来るのは、大体がしんどい時だと思え」

 周介くんは言う。

「そっか」

 思っていたよりも湿った声が出た。うれしい。ちょっと泣きそうだ。


 部屋に着いて、ドアを閉めるなり荷物を落とすように置き、おれは周介くんの腰に腕を回した。甘ったるい香りがする。周介くんは少しだけ身じろぎをして、おれのことをじっと見た。してもいいかな、と思いながら、確認するのもなんだかおかしいような気がして、何も言わずに口づける。周介くんは、そのままじっとしていた。唇を割って舌をもぐり込ませると、遠慮がちだけど、ちゃんと応えてくれるのがうれしい。つるりとした舌先の感触が、なんだか信じられないくらい気持ちよかった。ちゅ、と濡れた音をたてて唇が離れる。

「腹へった。めし食いたい」

 周介くんが言った。

「うん」

 おれはぼんやりと頷く。


 近所のラーメン屋で餃子とラーメンと炒飯を食べた。食べてからお風呂に行けばよかったね、とか、ラーメンと炒飯はいちばん太る組み合わせだ、とか、他愛もないことを言い合いながら食べた。

「東京は、どこにでもラーメン屋があっていいな」

 と周介くんは言う。ピンキリだけどね、と、お店のひとに配慮して、おれは心の中で思う。

 誰かとごはんを食べるのは、楽しい。それが周介くんとなら、なおのこと楽しい。そういうことを伝えられたらいいのに、どういうふうに言葉にすればいいのかわからない。だからといって行動で示すと、さっきみたいに、すぐにああいうことをしてしまう。シャンプーの、甘ったるい香りを思い出した。

 エロいことばかり考えているわけじゃないのに、どうしてもエロいことばかりしてしまう。エロいことばかり考えているわけじゃないとはいえ、実際エロいことも結構考えているわけだから仕方がない。

「こんがらがるな」

 呟くと、

「なにが」

 周介くんが不思議そうな顔でおれを見る。


 部屋に戻って、手を洗い歯を磨く。ふたりで布団にもぐりこむ。ふとんは一式しかないので、いつもふたりで使っていたのだけど、なんでそんな拷問に耐えていられたのか、今となっては謎だ。

 してもいいのかな、と思う。おれが今したいと思っていることを、周介くんにしてしまっていいのかな。

 うわ、と思った。おれ、またエロいこと考えてる。

 周介くんを見る。目が合った。それだけで、下半身に血液が集まり、そこがあっさりと形を変えた。その変形した部分を、周介くんの太ももに押しつける。周介くんは最初、不思議そうな表情をしていたけれど、すぐに自分が何をされているのかわかったようで、驚いたみたいにおれを見た。

 自分が、今とんでもないことをしているという自覚は、頭の隅っこにある。だけど、シャンプーの甘ったるい香りとか、さっきいっしょに食べた餃子の匂いとか、そういうものが湯気でぐるぐると混ざり合ったみたいになって、おれの理性をうまいことぼやかして、ごまかしている。

 周介くんが、おれのティーシャツの首元を掴んで、顔を寄せてきた。そのまま、ふに、と軽く口づけられて、驚く。すぐに離れそうになった唇を、慌てて追いかける。しばらく舌先でじゃれあって、唇を離した。

「いいの?」

 尋ねると、

「いいよ」

 と返事があった。

 本当にいいのかな、と思いながら、おれは周介くんのティーシャツを脱がす。周介くんは、本当に全く抵抗しない。

「最後までしていいの?」

 確認の意味を込めてしつこく尋ねると、

「おまえは、俺じゃないと駄目なんだろ?」

 周介くんは言った。

「うん」

 おれは、はっきりと頷く。

「だったら、いいよ」

 周介くんは笑う。おれは、溢れ出た唾をごくりと飲み込んで、周介くんの首筋に顔を埋める。そのままそこを軽く吸うと、

「……痛いかな」

 周介くんが、くすぐったそうに身を捩って言う。

「わかんない。痛いと思う」

 リアルな問いかけにどきどきしながら、おれは返事をした。返事をしながら、この部屋の中にあるものの中から潤滑剤になりそうなものを脳内検索している自分が、どうしようもなくエロいのだと自覚する。やめる気はさらさらないのだ。

「おまえが、こんなエロいことするやつだなんて知らなかった」

 周介くんが言った。

「おれも知らなかったよ」

 答えると、

「バカだわ、おまえ」

 周介くんはそう言って笑った。なんだか力が抜けて、おれも笑う。



【エピローグ】


 後悔は、直後にやってきた。

 あれに似ている。と、全裸でユニットバスのトイレに座って思った。浣腸された直後の異物感。腹が気持ち悪い。腹を下したみたいに、止まらない。というか、実際、現在進行形で腹を下している。

 一段落ついて水を流すと、今度は吐き気だ。

 大丈夫か、俺。込み上げてくる嘔吐感に逆らわず、素直にそのまますべてを吐き出しながら、明日、この体調で長時間の高速バスに乗らなくてはいけないのかと思うと、うんざりしてしまった。

「くそ、宮戸め」

 呟いてみたものの、宮戸が全て悪いわけではない。悪いのは、男同士のセックスをなめていた自分なのだから、怒りのぶつけどころがない。もっと念入りに心と身体の準備をするべきだった。特に身体。宮戸は、ハンドクリームだかボディーローションだかそういうものを使ったようなのだが、それでもやっぱり痛かった。ちょっとした苦行だった。痛いし苦しいし、なんで俺は痛いのを我慢してまでこんなことしてんだろう、と身体を揺さぶられながら思ってしまった。浅はかだった。安請け合いするんじゃなかった。だけど、中で出した宮戸も、やっぱりちょっとは悪いと思う。何も言わなくとも、気を遣って外で出すべきだろう。やっぱ、あいつバカだ。

 次はゴムが要る。絶対要る。そう思って、次もするつもりなのか、と愕然とした。今この時間の苦しさを味わいながら、次のことを一瞬でも考えた自分がおそろしい。しかし、俺はまた絶対ここに来るのだし、宮戸に求められれば応えるのだろう。拒みたくはない。だから、やっぱりゴムは必要だ。

「周介くん」

 扉の外で、宮戸の心配そうな声がする。

「大丈夫?」

 大丈夫なもんか。そう思うが、黙っていた。

 くそ。心の中で悪態を吐きながら、俺はまた嘔吐する。気持ち悪い。

「周介くん、ごめん。おれ、我慢できなくて、中で出しちゃっ……」

「うわあ、言うな!」

 遮って叫ぶ。生々しいことを言うな。肩で息をしながら、もう一度嘔吐する。

 だいぶ落ち着いて扉を開けると、突っ立っている宮戸と目があった。

「ごめんね」

 宮戸は言う。

「うん」

 俺は呼吸を整え、ただ頷いた。宮戸め、自分だけ服を着てやがる。そんなことを思いながら、布団の中から自分のパンツを探す。間抜けだ。

 脱いだものを身に着けて、

「水飲んで寝る」

 宮戸に向かってそう言うと、宮戸は黙って冷蔵庫からミネラルウォーターを出してきた。コップ二杯分の水を飲んで、布団にくるまる。宮戸は俺の中に出したのだし、俺は痛さのあまり途中で萎えて結局何も出さなかったのだから、布団はそんなに汚れていないはずだが、なんとなく気持ち悪い。ケツも痛いし身体もだるい。もう、いろいろとしんどい。

 宮戸が、俺の横に滑り込んできた。俺は宮戸にぶつかるようにしがみつき、

「ケツ痛い。しんどい」

 とりあえず、不快感をダイレクトに訴える。明日、帰る前にまた銭湯に行きたい。何時から開いてんだろ。

「ごめんね」

 宮戸は、それしか言わない。黙っていると、抱きしめられた。そのままキスをされ、俺はそれを受け入れる。そういや、吐いたあと歯を磨いてないなと思いながら、宮戸が気にしていないようなので、まあいいか、と目を閉じる。気持ちがいい。

 宮戸に求められると、単純にうれしい。宮戸は俺を必要としてくれる。周介くんがいいと、周介くんじゃないと駄目だと、そう言ってくれる。職場で、当たりのキツい先輩に、おまえの代わりはいくらでもいるんだと、そう言われ続ける毎日を忘れさせてくれる。それだけで、宮戸は俺の特別なひとになってしまった。だから、宮戸の求めることには、できる限り応えたい。

「また来てくれる?」

 宮戸が、不安そうな声で言う。

「うん」

 俺は頷いた。

「おまえが元気かどうか、また見に来るよ」

 口ではそう言いながらも、本当は違うことを、自分がいちばんよく知っている。

 おれは、おまえに必要とされに来るのだ。いつもいつも、おまえに必要としてもらいたくて、ここに来るのだ。

「また来てくれる?」「またおいでよ」宮戸が言うこの言葉は、俺にとって何よりも頼もしい。この単純な言葉だけで、またしばらくがんばれる。だから、絶対、

「また来るよ」



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