78話:聞こえないったら、聞こえない!
お腹の赤ちゃんが激的に暴れまわり、この子は絶対に男の子だ!と確信を持ち始めたある日、仕事帰りのジョルダン様から相談を受けました。
「今日、屋敷は完成したと報告があった。もうまもなく臨月だし、引っ越しは産まれてからにするか、それとも早めに終わらせるか迷っているんだが、ソフィはどうしたい?」
「うーん。今は荷物が運べませんし……」
「…………妊娠とかの関係なく、荷物を運ぶ必要はないがな!?」
「え!?」
衝撃の事実です。
荷物は業者や使用人が全て運び、配置してくれるそうです。
「いや、なぜそこに驚いている。ここに来たとき――――あっ」
ジョルダン様が何かを思い出されたようです。
私、ここに越してきたとき、大きな荷物は使用人たちに運んでもらいましたが、自分の部屋は普通に自分で色々しましたし。クローゼットの中も普通に自分で整理してますし。
そもそも今も自分で色々としてます。まぁ、ただ好きでやっているんですが。
「シルヴァンがとても楽しみにしていますので、早めがいいかなと思っています」
「ん、わかった。普段使わないものから運ばせ始める」
暫くは業者が出入りしてうるさくなるだろうから、実家に戻るか聞かれました。
ここ最近、兄とミヌエットが随分とラブラブな様子なので、実家はなしです。私やシルヴァンがいると気を使わせてしまうかもですし。
「……マクシム、ノリと勢いだけで彼女と付き合い始めたのかと思ったが、ちゃんと愛し合っていたんだな」
「ええ。驚きなのですが! そうなんですよねぇ」
ワンチャンあると思ったのに! ジョルダン✕マクシム。もしくはマクシム✕ジョルダン。
ジョルダン様にそれはないとアイアンクローされましたが、こんなことで私はメゲません!!
微かにでもワンチャンありそうなら、妄想はできます!
「全く……ソフィの頭の中を覗いてみたいよ。ソフィの中に入って世界を見たら、どれだけ輝いて見えるのかも気になるな」
「あはははっ! きっと、目が潰れますよ!」
ジョルダン様にシルヴァン。
愛しい存在が毎日側にいて、キラキラと輝いていますからね。
「…………っ」
ジョルダン様がぎちぎちに抱きしめてきました。
何やら感極まったご様子。最近は涙脆くなってきたとか呟かれています。
今回の出産でもまた泣かれるのでしょうか?
ああいうときのジョルダン様って本当に可愛らしいんですよねぇ。
シルヴァンがいるからグッと我慢されるのでしょうか?
楽しみすぎて、今から妄想が止まりませんっ!
「…………頼むから、今の状態では、書類や手紙を書かないでくれよ?」
どういうことでしょうか?
なぜにそんなにも信用がないのでしょうか?
何があったら信用があるとか思えるんだとかのジョルダン様の呟きは聞こえません!
「聞こえてるだろうが」
聞こえませんったら聞こえません。
ミヌエットにでも手紙を書こうかしら?
「本当に、やめておきなさい」
またもやアイアンクローされました。
妊婦に対して酷くないですか!?
次話も明日の朝に投稿します。




