65話:視察の理由と、帝王。
どうやら、以前私を誘拐したスラビア国に向かわれるそうです。
スラビア国とはあの件以来、国交断絶になっていたそうなのですが、後ろ盾の国から和睦は出来ないだろうかと言われたそうです。
「先日、主要国での世界会議に陛下が出席されたんだが、そのときにな……」
どうやら他国の面々もいたため、和睦の話し合いを了承することになったそうです。
和睦するかはまだ決定ではないそうで、名目は『視察』なのだとか。
なんだか自分が事件を起こしているようで、大変申し訳ない気分です。
「ソフィ、君は悪くない」
「はい」
こうやってハッキリと仰っていただけるのが、とても嬉しいです。
「それでだ。長期で留守にするから、実家に帰っておくのはどうだろうか? ご両親も、本当はもっと頻繁に孫に会いたいだろうし」
お義母様は数日に一度は来られ、シルヴァンとキャッキャウフフで遊んで帰られます。
お義父様はそれに時々ついてこられているのか、お義父様が来られる日にお義母様がついてきているのかは謎ですが、わりと頻繁に来られます。
私の両親は、一ヶ月に一回程度だったので、まだ数回しかシルヴァンと対面していません。
ひとえに、『嫁に行ったら他人』といった風習があるせいだとは思いますが。
「そういったところ、ソフィもマクシムもゆるゆるなのに、ご両親はとても真面目だよな」
――――ん? ディスられてます?
「ディスってない、率直な感想だ」
「時代や世代の違いですかねぇ?」
「まぁ、それもあるだろうな。で、どうする?」
実家でのんびりしたり……いえ、こちらでも基本的にのんびりしてはいるのですが。ミヌエットとおしゃべりしたりもできますね。
それに、両親は間違いなく喜ぶことでしょう。
「はい、たまには真面目に親孝行してきます!」
「はははっ! ん、楽しんできなさい」
柔らかく微笑みかけてくるジョルダン様。あまりのイケメンさに目が潰れそうです。
何がどうなれば、こんなにも素敵に育つのでしょうか?
私がシルヴァンを育てて大丈夫なのでしょうか!? 『第二のマクシム』とかにならないですよね!?
そう話していると、ジョルダン様が大爆笑してしまいました。
「流石にそうはならないだろうが……まぁ、それはそれで面白そうだな」
ジョルダン様は、どこまでもお心が広いです!
私なら脳筋兄タイプなど断固拒否です。そうならないようにシルヴァンには言い聞かせ続けていきましょう。
「ソフィだけにだ」
ちゆ、と甘い甘いキス。
「さ、そろそろベッドに行こうか」
あれ? 夜の帝王ですか!? んん? ただ単に眠くなったか、眠る時間だから?
んんんん?
「今日はシルヴァンも静かなようだし、な?」
――――帝王!
深く深くにこりと笑われてしまえば、私は蜘蛛に絡め取られた虫のごとく、運命を受け入れるだけになりそうです。
「たまにはソフィから誘ってくれてもいいんだがな?」
「ヒョエッ!?」
「っ、ははははは!」
今度はいたずらっ子のように笑うジョルダン様。
くるくるといろんなジョルダン様が現れて、今日はなんだか既に濃厚摂取気味です。
次話も明日の朝に投稿します。




