62話:お名前は?
ジョルダン様が主寝室に入ってこられました。
オロオロしていたとか聞いていたのに、物凄くキリッとした表情で。
「……ソフィ…………」
あ、早くも表情が崩れました。眉がへニョンとしてます。なんだか泣きそうです。
使用人たちを少しの間だけ下がらせましょう。
「…………っ、ありがとう。産んでくれて、産まれてきてくれて」
目元を真っ赤にしたジョルダン様に、息子ごとギュムムっと抱きしめられました。
小さな声で「ソフィが無事で本当によかった」と呟かれて、私って本当に愛されているんだなぁと実感。
「はい! ジョルダン様に褒めてもらわなきゃなので!」
「ふははは! ん、頑張ったな、偉い偉い。ソフィは偉い」
「えへへへへ!」
頭を撫で撫でしてもらって、大満足です。
ジョルダン様に息子をそっと渡すと、なんだか手慣れた手つきで抱っこされました。
「この年になるとな……まぁ、友人や部下の子供を抱く機会が多くてな…………」
あ、とても塩っぱい理由でした。なんかごめんなさい。
「このときのための練習だったんですね!」
「はははは! きっとそうだな。お前も、よく頑張ったな」
ジョルダン様が息子の額にキスを落としました。
それはもう、女神様のような微笑みで。
「なぜそこで女神になるんだ」
「いやぁ、なんか神々しくて」
「私にとって女神はソフィなんだがな?」
――――グハッ!
ジョルダン様がナチュラルに人たらしです。
エグいほどにイケメンです、こんちくしょう。
息子に見習わせましょう。
「さて、名前を決めないとな」
何個かリストをあげてはいましたが、決定は顔を見てからと決めていました。
「ソフィは『この名前がいい』などはあるか?」
「いえー? ジョルダン様が付けてあげてください」
「いいのか?」
「はい! お父様からの初めてのプレゼントです!」
「っ…………」
ジョルダン様がなぜかまたもや感動して目頭を押さえていました。
「ソフィのくせに……感動させないでくれ。威厳が…………」
――――くせに!?
なぜか盛大にディスられました。
「ん。この子は、シルヴァンだ」
シルヴァン!
なんだか素敵な名前です。確か意味は森とかそんなんだった気がします。
「今は灰色に近いが、この子の瞳は美しい緑色になる気がする。………………たぶん」
たぶんなんかーい! とは思いましたが、わりとジョルダン様の家系にそういった色合いの変化をする人が多いんだとか。
「シルヴァン、お誕生日おめでとう」
「ん。シルヴァン、お母様のお乳をしっかり飲んで、すくすくと育つんだぞ」
シルヴァンがフニャフニャと泣き始めたので、ジョルダン様がそっと手渡して来られました。
ハワハワと受け取りつつ、お乳を与えると直ぐに静かに飲み始めました。
「どどどどうしましょう!?」
「ん? どうした?」
「シルヴァンが可愛すぎます!」
「っ、ははははは!」
このめでたい日、屋敷にはお腹を抱えたジョルダン様の楽しそうな笑い声がずっと響いていたそうです。
次話も明日の朝に投稿します。




