60話:ドフリと体当たりをした結果。
もういつ生まれてもおかしくない、そんな時期になりました。
一歩一歩、慎重に歩きながらの庭園のお散歩。お医者様からしっかりと運動するようにと言われているのですが、これが大変で。
「はふぅ……」
十五分ほど歩いて四阿で一休み。また十五分ほど歩いて屋敷に戻っています。
軽い運動をすることで赤ちゃんに刺激が届き、生まれやすくなるのだとか。
運動が終わったら部屋で少し休憩して、夜にジョルダン様のお出迎え。
なんだかお腹がいつもより妙に重たいです。
ハフハフと息をしながら玄関に向かうと、ジョルダン様に無理はしないようにと怒られてしまいました。
「でも、ありがとう。ソフィがいつも玄関に来てくれるから、私は帰ってくるたびに世界一の幸せ者の気分になれる。もちろん、出迎えられなくても、幸せ者なんだがな――――」
ちゆ。
頬に柔らかなキスをしてくださいます。
ジョルダン様がデロ甘です。
「私も幸せものです!」
わはーっ!っとテンションがダダ上がりで、ジョルダン様の首に抱きつこうとしましたら、お腹でドフリと体当たりをカマしてしまいました。
未だにちゃんと自分の体の範囲が掴めていません。
体当たりの衝撃で軽く跳ね返され、これはマズい転けるなと思ったのですが、流石ジョルダン様です! しっかりきっかりぎゅむっと抱きとめて下さいました。
「ソフィ! お前は全くっ!」
あ、やべっ。お説教が――――パチュン。
――――ぱちゅん?
何かが弾けたような音が聞こえ、じわりとお股が温かくなり…………びちゃびちゃと濡れる床とジョルダン様のズボンと靴。
これは……破水ですね。
「じょじょじょじょるだんさま……革靴がっ!」
「気にするところはそこじゃないだろう!? おいっ!」
ハワハワしまくる私を抱きしめたまま、ジョルダン様が冷静に使用人たちに指示を出していきます。
何この人、めちゃくちゃカッコイイんですけどぉ! あ、私の旦那様でしたね。いやしかし格好良い。
あれよあれよという間に、主寝室に寝かされ医師もスタンバイ完了。
破水したらすぐに出てくるものではなく、ここから戦いが始まるのですが、既に出てくるんではなかろうかというほどにお腹も腰もお股も痛いです。
「失礼いたします…………やはり!」
――――やはり?
「子宮口が開いています。もう出てきます!」
ですよね!? めちゃくちゃ痛いですもん! 絶対に出てきそうな感じでしたもん!
そこからバタバタと準備の最終チェック。私は『いきめ』『いきめ』と言われ続けて『いきむ』って何だっけ? とゲシュタルト崩壊です。
主寝室の外では、ジョルダン様が廊下を忙しなく歩き回っているそうです。つまり、ソワソワうろちょろしているのですね?
なにそれ、超レアじゃありません?
見たいんですが!?
次話も明日の朝に投稿します。




