58話:悩みと日常。
ここ最近、とても悩んでいます。
妊娠後期に入ってきて、お腹が邪魔で邪魔で、寝返りがうてないのです。
何なら仰向けでも寝られないのです。
背中や腰がしんどいです。
「こんなに膨れるものなんですね……」
妊婦さんたちを町中で頻繁には見かけないのでイメージが湧きづらいというのもありますが、それでもお姉様が妊娠中などにお祝いに伺ったときにお腹を見てはいるのです。
ですが、人のと自分のとでは全く印象が違いました。
足元が全然見えません!
お腹も腰も重いです!
「ん。すくすくと育っているな」
「はい。あ、動きました」
「どれ……ん? もう大人しくなったのか……」
ジョルダン様がしょんぼりです。
ここ最近、胎動が目に見えてわかるようになったというか、外から触ってわかるようになりました。
お腹の一部がニュッと足や手で押されているような、変な膨らみ方をするのです。
ジョルダン様はそれを見たり感じたりしたいようなのですが、なかなかタイミングが合わずで、今みたいにちょっとしょんぼりされます。
「父にもお前の元気さを教えてくれないかい?」
ジョルダン様が愛おしそうな笑顔と声で、お腹を撫でながら赤ちゃんに話しかけてくださいます。
「それから、夜中は暴れずにお母様を寝かせてあげなさい」
ジョルダン様、心までイケメンで育メンです。
ジョルダン様に話しかけられると、赤ちゃんは大人しくなるのです。なんとなく、私と同じタイプな気がします。ジョルダン様の柔らかいお声を聞いていると、眠気が――――。
ハッ、と気づくと、すでにお昼。ジョルダン様はお仕事に行かれたそうです。
眠い目をこすりつつ、ダイニングに向かいました。
この寝不足感と睡眠時間の増加も悩みのひとつです。
「ごちそうさま。食器、下げてくれる?」
「かしこまりました」
今までは自分で動いてやっていたことができなくなり、侍女に何でもかんでもお願いしてしまっています。
「侍女なんですから、何でもかんでもお願いしてください。今までが可怪しかったのですよ」
「いや、何でもかんでもは駄目でしょ!?」
「一般的には駄目ですが、ソフィ奥様の『何でもかんでも』はハードルが低すぎるので、大丈夫でしょう」
執事にまで『何でもかんでも』でいいと言われてしまいました。
世間一般のお嬢様や奥様方はどこまで頼むものなのでしょうか?
午後になると少し目が覚めるので、ゆっくりとお庭のお散歩。四阿で少し休憩して、部屋で午睡。ジョルダン様を玄関でお迎えして、一緒に夕食。
これが最近の日常です。
「もう八ヶ月か。ソフィには『やっと』といった感じかな?」
「あはは。はい、やっとですね」
ベッドに横向きで寝ながら、ジョルダン様とおしゃべり。
優しくお腹や腰を撫でてくださり、頬や頭も撫でてくださいます。
そうすると、充分に寝たはずなのに、またうつらうつら。
少しの間だけ安眠を手に入れられます。
「はううぅぅぅ」
そうして夜中に、胎動で目覚めるまでが、日常。
赤ちゃんは夜中に起きて何をしているのでしょうか?
「んー? 寝相が激しいだけじゃないのか? ソフィみたいに」
――――へっ!?
次話も明日の朝に投稿します。




