57話:予想外なんですが……。
先日から『悪阻――つわり』たる、妊婦の大敵と戦っていました。
何を食べても、うえっぷ、おえっぷ、おろろろろ。
大好きだった食物の匂いで、うえっぷ、おえっぷ、おろろろろろろろ。
その日によって、おえっぷになるものが変わる謎。
全くすすまない食事。
激ヤセまっしぐらかと思うじゃないですか?
「ほら、これは食べられるだろう?」
「ふぁい、とてもおいひいです」
ジョルダン様の謎の能力が開花。
私が食べられるものをピンポイントで当ててくるのです。
今日はいちごジャムを塗ったパンでした。
パンだけだと駄目だったのに、いちごジャムを塗った瞬間、もりもりと食べられました。
隣でニコニコ満足顔のジョルダン様をチラ見しつつ、もぐもぐ。
艶めかしい溜め息を吐きながら「ソフィのもにゅっと動く頬は可愛いな」とか謎の愛を囁いています。無視でいいでしょうか?
こういうときの男は役に立たないとか曰いやがったのはどこのどなたですか。
めちゃくちゃ役に立ちすぎて予想外です。
あと、次々と差し出される食べ物のお陰で全然痩せませんが!
そりゃあ、赤ちゃんの為には痩せないほうがいいんですけどね。太り過ぎも駄目だと言われていますし。
こう、なんか上手いこと体重管理を………………あ、オレンジが美味しいですね。昨日は果物系が一切駄目でしたが…………ハッ!
お腹がちょっとぽっこりとして、これはどっちなんだ疑惑が発生していたある日、急に悪阻が終わりました。
本当に急にでした。
朝まではおろろろしていたのに、お昼寝して起きたら、なんだか全てが平気なのです。
あれ? あれれれ? とか言いながらいろんなものを食べてしまいました。
「ソフィの分の夕食が用意されていないが? 食べれるようになったんじゃないのか!?」
ジョルダン様が帰って来て一番に悪阻終了報告はしたのですが、夕食の報告はしていませんでした。
「すみません。なんだか平気ー、わはーい! となりまして、おやつと称していろんなものをガッツリ食べすぎてしまい…………夕食が入りません…………」
力いっぱい頭を下げて謝罪しましたら、「ブフォォ」っと空気が漏れたような変な音。
ちらりと顔をあげると、ジョルダン様がお腹を抱えて笑っていました。
「ははははは! ソフィらしいな! ん、良かった」
そして、やっぱり甘い甘いキスを頬にくださいます。
ジョルダン様って、幼い見習い騎士たちの扱いがとても上手いと聞きますし、子供好きらしいという噂もよく聞きます。
この調子だと、完璧なる育メンたるものになりそうな気がします。
「あの……頑張りますので、母親の地位はクビにしないでくださいね?」
「いやまて、何で急にそんな話になるんだ!」
なんだか育メンが天元突破して、子供がジョルダン様を超絶リスペクト、へっぽこ母ちゃんはクビな! みたいな未来予想図がふわりと脳内で生まれてしまいました。
「ソフィは、本当にその変な妄想癖はなんとかしなさい。聞いている分には面白いが…………その被害に合うのは基本的に私だよな?」
「……………………えへっ!」
小首をかしげてニカッと笑って誤魔化しました!
次話も明日の朝に投稿します。




