55話:この国に来た理由。
ふと気になり、オフェリア殿下になぜ今回こちらに出向かれたのかお伺いしました。
基本的に婚約する場合は、男性が相手の家に出向くものです。それは王族でも国力の差があろうとも変わらない。
本当ならデメトリオ王太子殿下が、オフェリア殿下の国に出向き希うべきこと。
その理由は、まさかの先日の誘拐事件にあるとのことでした。『スラビア国の姫君がシルレー王国・王太子殿下の婚約者を誘拐した』という誤報が入ったそうです。
すぐに訂正はあったものの、それが事実とは限らない。実は婚約者がいた、もしくはそれを狙ってシルレー国内の貴族が動き出す可能性を危惧したらしいのです。
「だからオフェリア殿下自ら?」
「ええ。お父様に何が何でも仕留めてくると約束したのよ」
――――強い!
オフェリア殿下の行動力が凄すぎます。
見習いたいです!
またもや脳内にイマジナリーお兄様が生えてきて、なにゃらワーギャーと叫ばれていますが無視です。
「あとは、デメトリオ様を驚かせてやりたかったのよね。なんだか悔しいじゃない翻弄させられっぱなしなの」
「まぁ!」
オフェリア殿下がちょっといじけたような顔をされました。めっちゃくちゃ可愛いです。
ジョルダン様からは王太子殿下が一方的に想いを寄せていたように聞いていたのですが、間違いなく両想いのようです。
お二人とも気が強いというか、指導者タイプっぽいので、今までは決定的な言葉を避けていたせいで、妙に拗れていたようにも感じました。
「自国では既に薹が立っている扱いの年齢だし、他国の王太子殿下の妻になりたいなど言えないって思っていたのだけどね。我慢、出来なくなっちゃったのよ」
今回のオフェリア殿下の積極的行動のお陰で、『両片想い』から『両想い』になったのでしょう。
なんて素敵な出来事なのかしら。
「無理矢理な押しかけだったけど、来てみて良かったわ」
この数日、政治のこと抜きで王太子殿下とたくさん話すことが出来たのだそう。
とても楽しく、愛しい時間だったそうです。
ちょっとだけその内容を聞いて、キャーキャーと悶えてしまいました。
「私ね、こんなふうに恋バナ?したの、初めてなの。……楽しいのね。すごく!」
「わかります! 楽しいですよね!」
二人キャッキャと盛り上がって、この日のお茶会は終了しました。
また近いうちに会いましょうと約束して。
屋敷に帰る頃には日が陰り、夜の帳が落ちかけていました。
「おかえりソフィ」
「ただいま帰りました」
ジョルダン様が玄関ポーチで出迎えてくださって、馬車を降りてすぐ駆け寄り、広い胸に飛び込みました。
だってジョルダン様が両手を軽く広げて『おいで』と誘うから。
「随分と楽しく会話していたと聞いた。仲良くなれたようだな?」
「はい! 沢山のオフェリア殿下を見れました! 沢山恋バナしました!」
「ははははっ。ん、良かった」
キュッと抱きしめてくださったあと、耳元で「では、夜は私のための時間に」と柔らかく囁かれました。
――――なぜに帝王ぅぅぅぅ!
次話も明日の朝に投稿します。




