50話:晩餐と歓談。
晩餐会の食事は、頬が落ちる程に美味しかったです。
なんですかあのふわほくとした白身魚は。なんですかあの脂身は甘く、口に入れると蕩けるお肉は。あと三皿ずつ食べたいくらいです。
……流石にそれは言いませんが。
それぞれの招待客とまんべんなくお話しするのが、晩餐会でのルールではあります。が、私にそんな高度なものを求められても困ります。
なので、応えられそうにない場合は秘技『いま咀嚼中なので微笑みだけですみません』を計画していました。
今のところ他愛もない雑談ばかりでホッとしています。
「水菓子は、今が旬である王太子の好物だよ」
「まぁ! 貴方、桃が好きなのね」
「美味しいだろう? 暑い日はジュースに、寒い日は乾燥させた実を紅茶に入れるのもおすすめだ」
あら、美味しそうですわね! と心のメモ帳にメモメモしていましたら、お話はとんでもない方向へ。
「そういえば、先日はとても大変だったようですわね。あそこの国のルールは本当に特殊ですわね」
「ああ、全く理解出来なかったよ。姫君は送り返したが、これからどうなることやら」
「我が国もできる限り抗議する予定だと、陛下から言付かっておりますわ」
「ははは、それは頼もしい」
対面側で行われている会話はスルー案件な気がします。なんとなく先日の誘拐事件の内容な気がしますが、国のなんやかんやがなんやかんやで聞いてはいけないレベルです。
「ソフィ嬢も、大変でしたわね」
無心でフルーツを食べていましたら、飲み込んだ瞬間に話しかけられてしまいました。
秘技『いま咀嚼中なので微笑みだけですみません』が出来ませんでした。
「お心使い感謝いたします」
目を伏せ、感謝の意を伝え…………て? あとは何を言ったらいいんでしょうか?
「ソフィ嬢はなかなか肝が据わっていてな。助けに駆けつけたら、しっかりと食事をしていたんだよ。あれは笑ったな」
「爆笑されていましたね……まったく。人の気も知らないで」
ジョルダン様がハァと大きな溜め息を吐かれましたが、それは私になのか、王太子殿下になのか……気になるところです。
食事が終わり、男性陣と女性陣と分かれて歓談の時間です。
男性陣は基本はお酒を嗜みつつ葉巻を吸い、政治や領地運営の話をするのだとか。
女性陣はお茶やお菓子を食べつつ、最近のはやりものの話をするのだとお義母様に教えていただきました。
「ジョルダン様も吸われるのですか?」
「あの子はほとんど吸わないわ。あまり好きじゃないらしいのよね。主人はヘビースモーカーよ。臭いが染み付いちゃって嫌なのよねぇ」
「わかりますわ!」
宰相閣下の奥様が葉巻の移り香について滾々と話されていました。他の女性陣たちもうんうんと頷いていらっしゃるのを見ると、皆さん葉巻の臭いが苦手なご様子でした。
「でも、お義父様はすごくいい匂いがしますよ? 燻製をしたときのような、渋さと芳醇さに近いような……とても似合ってます」
「確かに、渋くて良くはあるのよねぇ。口付けはちょっと遠慮したいのよね」
「「わかります!」」
どうやら、葉巻を吸ったあとのキスは、ちょっとどころではない嫌な風味がするらしいです。
ちょっと気になってきました。
次話も明日の朝に投稿します。




