48話:陛下にご挨拶……!?
晩餐会が開催される広間に入ると、中には錚々たる国のメンバーたちが歓談していました。
いわゆる重鎮の方々です。
朗らかにこちらに手を振って下さっているお義母様の元へ走っていきたい気持ちを抑えて、ジョルダン様と一緒に国王陛下と王妃殿下にご挨拶です。
……国王陛下。
デビュタントボール以来なのですが?
この国では、その年に社交界デビューを迎える者が参加するデビュタントボールという夜会があります。そこで白いドレスを着て国王陛下にご挨拶をし、陛下からお言葉を賜って社交界デビューを果たすのです。
家名、ファーストネーム、短い挨拶の言葉。そして何よりも、完璧なカーテシーが必要となります。
私は十六歳の頃に出席しましたが、懐かしいです。……色々と。
「息子が無理を言ってすまないな」
「ありがたきお言葉です。で、その殿下は?」
「オフェリア姫と裏で言い合いをしているのよ」
「またですか……」
――――また?
またというほど言い合いをされるのですか? 他国の姫と? 婚約式をすると意気込んでいる方と?
よくわからない状況に頭の上に『?』を浮かべていましたら、国王陛下にジッと見つめられていました。
「アゼルマン家のソフィ嬢だね。君のことはよく覚えているよ。デビュタントボールで……ブフッ!」
――――ブフッ!?
急に国王陛下が吹き出して肩を震わせ始めました。
あれ? まって、アレ、覚えられてるの!?
もう何年も前の話なのに!?
「っ…………すまない……ブフッ」
ジョルダン様が耳打ちして教えてくださいました。国王陛下は『ゲラ』なのだと。
ゲラとはつまり、笑いの沸点の低い方。
陛下いわく、あの日は本当に笑いを我慢するのが大変だった、と。
ジョルダン様と王妃殿下が陛下から語られる、私の残念なデビュタントボールの衝撃的瞬間を聞き、吹き出していました。
みんなゲラなんじゃないの!?
「いや、あれは見事な転けっぷりだった!」
なぜか国王陛下から褒められました。嬉しくないです。
あの日、挨拶までは完璧だったんです。ちょっと鼻がムズムズしていたというくらいで。
挨拶が終わり陛下の前から辞するときに事件は起こりました。
ムズムズが最高潮になり『へぷしっ』と小さくくしゃみが出た瞬間、足を滑らせて後ろに転けそうになり、踏ん張ったら勢いが付きすぎて前のめりに転けてしまったのです。
「あの海老反りは見事だっ、ブフフフッ!」
はい、見事に上半身を床にビターンと貼り付け、足は空中に投げ出す形になりました。
しかもその後、いじけて立食の料理たちをもりもりと食べるところまで見られていたとは知りませんでした。
あのときに、夜会の料理の尋常ならざる美味しさと、誰もがほとんど食べないという謎を知ったのですよね。
そんなこんな話をしていましたら、やっとこさ王太子殿下とオフェリア殿下が入場されました。
「お待たせしました」
「ランクスター王国、第二王女、オフェリアにございます。本日はこのような場を設けていただき感謝いたします」
お二人が陛下方にご挨拶されてから、こちらに向かれました。
王太子殿下はすまなさそうに微笑まれ、オフェリア殿下は……なぜか睥睨するような目で見てこられます。
――――あら? これは?
なんだか嫌な予感です。
次話も明日の朝に投稿します。




