47話:帝王はいつでも現れる。
晩餐会当日、当国の王妃殿下とランクスター王国第二王女殿下のドレスの色の連絡がありました。
王妃殿下はワインレッド、王女殿下は深めの水色とのことでした。
「……女の勘とはこうも当たるのか」
コルセットをギッチギチに締められてしょんぼりです。
アプリコット色のドレスを着付けられている姿を眺めながら、ジョルダン様が謎の感心をしていました。
勘というよりは、当然の結果と言いますか……。
「フフッ……そうだな。ソフィはいつも私の色のものを着けてくれているものな」
ジョルダン様が柔らかく微笑みながら、鏡台に用意されている耳飾りを手に取り、そっとキスを落とされました。
ちゆ、痺れそうなほど甘いリップ音が聞こえてしまい、背筋がゾクゾクとしてしまいました。
お見合いの当初は、こんなにも愛し愛されるようになるとは思ってもみませんでした。愛しい人が出来て初めて知る感情や感覚は、結婚して一年が経ってもなかなか慣れません。
「奥様、まっすぐ立ってください」
「ふぁい、ごめんなさい」
ちょっとだけ腰を抜かして侍女に怒られている私をチラリと見やりながら、ジョルダン様がクスリと笑って着替えに向かわれました。
なんだか負けた気がするのはなぜでしょうか?
「ふわぁぁぁ、緊張してきました」
ガタガタと揺れる馬車の中でお腹を抑えています。
いえ、ハラヘリとかではないですよ?
晩餐会に参加するのは二十人程度とお伺いしていました。和気あいあいとした小規模の晩餐会だと聞き及んでいたのですが、よくよく考えると、参加者はほぼ王族ではありませんか。
私、場違いじゃないんでしょうか?
「殿下自らソフィに参加してほしいと頼んできた。堂々としているといい」
「お義父様とお義母様もいらっしゃるんですよね?」
「あぁ、父がランクスター側の高官の指導をしているからね」
お義父様のお仕事が多岐に渡りすぎていて理解が間に合いませんが、とにかく凄いのはわかります。
聞く度に違うお仕事をされているのです。そしてニコニコと笑いながら「細かいことは気にしなくていいよ」と頭を撫でられます。
我が家のキーキー煩いお父様と違って、堂々かつ柔らかい雰囲気はとても心が落ち着きます。
何かあったら義両親に泣きつきましょう!
「そこは、私にしなさい」
「え、だって、ジョルダン様は謎に夜の帝王降臨す――――るから……」
あ、やらかしました。今の一言で夜の帝王が顔を覗かせています。
全く笑っていない目で、口元だけに微笑みを乗せて。
「あっ! そっ、そろそろ到着しますわ!」
「ん――――楽しみだな?」
――――何が!?
まってまって! 謎すぎです!
何を楽しみだと言われているのでしょうか!?
晩餐会ですよね? 晩餐会。
新たなお付き合いが生まれるという、晩餐会ですよね!?
「んー? 晩餐会から帰ったら、楽しく過ごそうな?」
にこりと笑っていないのに笑うという謎の笑顔のまま、耳元で囁かれました。
「――――ベッドの上で」
この瞬間、色々と考えていたり悩んでいたり緊張していたりな色々が、夜の帝王ジョルダン様により吹き飛ばされてしまいました。
有り難くはありませんがっ!
次話も明日の朝に投稿します。




