41話:言うべきか、言わざるべきか。
ベッドの中で二人見つめあい、もぞもぞ、もじもじ。
なかなか言葉が出て来ません。やっとこさ出てきたのは、何の変哲もない朝の挨拶。
「おはよう」
「おはようございます」
ジョルダン様が、少し申し訳無さそうなお顔になられました。
「……事後処理があるので仕事に戻るが、なるべく早く終わらせるから…………」
――――から?
「屋敷内で待っていてくれるだろうか? あんなことがあったのに、また閉じ込めるようで……すまない」
正直、外出する気力は湧かないので、屋敷内に留まるのは特に構わないのです。
寝て起きて頭がスッキリしたら、昨日のことが急に恥ずかしくなりました。寝不足とは、あんなにも頭が働かないのですね。
話さなきゃなこと、話すべきじゃないこと、ちゃんと頭を働かせてまとめたいです。
普段からそんなに働いてないだろ、とかイマジナリー脳筋兄の声が聞こえたので、あとで本体に脇腹チョップしておきましょう。
色々と考えすぎて疲れたので、屋敷内の書斎から本を借りて読むことにしました。ちょっとだけ逃避行動。
部屋で何冊か読んでいるうちに、夕方近くになっていたらしいです。
全然ちょっとだけの逃避行動ではありませんでしたね。
部屋が茜色に染まり始めたころ、ジョルダン様が息を切らして部屋に飛び込んで来られました。
「…………良かった。ちゃんといる」
ボソリと呟かれた言葉に、心臓が締め付けられました。
「おかえりなさい」
「ん、ただいま」
ジョルダン様の破顔は、いつ見ても眩しいくらいに格好良くて、何だかさらに胸が苦しいです。
とてとてとジョルダン様の方へ歩いて行き、広い胸にぽすりと収まりました。
人の体温はとても安心出来るものなんだ、と昨日気付きました。
「ソフィ?」
「……おかえり、なさい」
色々と話したかったのに、何を言えばいいのか分からなくなってしまいました。
ジョルダン様が片腕で腰を支え、もう片方の手で後頭部をゆっくりと撫でてくださいます。
優しいジョルダン様。
甘えてばかりの自分。
「ごめんなさい」
「っ? どうしたんだ?」
「わかりません…………」
本当はわかっているのに、言う勇気が出ない。
お腹の奥底に渦巻く自分勝手な想いを言うべきか、言わないべきか。午前中からずっと迷っていたのです。
言ったらきっと嫌われてしまうから。
「ソフィ?」
「お仕事、お疲れさまでした。その、視察の邪魔をして申し訳ありませんでした。日程等のズレや金銭的損害はどの程度ありましたか? 両親に相談しますので」
ジョルダン様の胸から抜け出し五歩ほど下がってから、そうお伝えしました。
ジョルダン様の表情がみるみるうちに曇っていきます。形容し難いほどの苦悶の表情。
「………………君が一番に相談する相手は、私だと思うのだが?」
「私は、ジョルダン様のお側にいるべきではな――――」
言い終わる前に、口を塞がれました。
ジョルダン様の熱い唇に。
「――――逃げるな」
「っ……」
まるで、猛禽。
獲物を絶対に仕留めると決めた猛禽類のような瞳に睨まれ、全身から力が抜けてへにょりと床に座り込んでしまいました。
次話も明日の朝に投稿します。




